死地に入
つて蘇息
す
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と、平八が陽明を崇拝するもの、其れ此の如きあり、文章難渋通せす、と雖
ども、文学語句の間に平八をむるは、平八の真面目にあらざるなり、今此
の文を読むに、其の末段悲哀惨痛、病憊昏倒の余、王氏の書を得て、大に悟
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入するところあり、大に啓発するところありしを自白せり、心に嬰へる肺疚、
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死せむと欲するもの再三、平八は殆むと死地に落ちしものなり、死して而し
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て輾轉蘇息し来る、其の頓として大虚の理を悟り、寂として良知の機に触れ
し王学を祖述して別に一家言をなすに至る、固より偶然にあらず、平八は実
に此の如く崇拝する、陽明の家学を尊奉し、祖述し以つて一方には大坂府尹
幕下の賢吏として、吏務の治績を挙げ、一方には、洗心洞学堂の厳師として、
道学の鼓盪に勗めたりしが、其の一世の知己、一代の恩人たる高井山城守が
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冠を挂けて致仕するや、平八も亦た共に退遯して招隠の篇を賦し、今や唯洗
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心洞の厳師たる大塩中斎先生が、荘重厳獅フ儀容を以つて、三千の弟子を見
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台の周囲に睨みながら、洞々たる音調もて、大虚を説き、良知を談じ、議論
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風生爽かに鋭く、英気四筵を圧するを見るのみ、
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肺疚
(はいきゅう)
輾轉
(てんてん)
ころがること
鼓盪
(ことう)
打ちふるわ
せること
勗(つと)め
挂(か)けて
厳
(げんれい)
きびしく、は
げしいこと
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