Я[大塩の乱 資料館]Я
2016.3.24

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』 その3

国府犀東(1873-1950)

(偉人史叢 8)裳華書房  1896

◇禁転載◇

徳川時代の社会的暗潮流(1)

管理人註


























戦国時代の
大波瀾は徳
川時代の大
沈静となる

























戦国時代は
異才自由競
争なり
































国民も大龍
騰大噴火

  戦国時代の大波瀾は徳川時代の大沈静となる○戦国時代は異才自由競争   の場なり○国民的大龍騰大噴火○覇府時代の大沈静○羮に懲りて膾を吹   き噎に因りて食を廃す○処士と武者修業者○徳川時代第一回の激龍騰活   噴火○文学と任侠○和学者と戯作者及び侠客○松平定信時代の三大責務   ○辺疆のと王覇の衝突○辺疆防備と王覇の弁○天保の飢饉○極端社会   主義と王覇の衝突○徳川時代第二回激龍騰活噴火○救民の旗、天誅の旆 社会は活動す、活動の機は神蔵し鬼伏し、殆むと端倪すべからず、而かも其 の活動の機や、毎に原因結果の、相関聯せる現象の連続を通じて、輾轉し流 灑し、低昴し、騰落す、一輾轉の間に、一低一昴あり、一流灑の中に、一騰 一落あり、一つの大騰昴は一つの大低落となり、一つの大波瀾は、一つの大      ・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ ・・・ 沈静となる元亀天正は大騰昴の秋なり、慶長文録は過渡の時代なり、元和建 ・・・・・・・・・・・・  ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ の彼は大低落の時期なり、戦国時代の大波瀾は、覇府時代に至りて大沈静 ○ ○ ○ ○ ○ を示めしぬ、 徳川時代は燦然たる制度の美と、井然たる秩序の整とを、其の外観とし外形 とすと雖ども、其の裏面には、間断なく一つの懼るべき社会的暗潮流の、鬱 鬱塞し礙滞し、時に波動し迸発し、波瀾なく震撼なき、社会表面の根底に、                             ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 毎に発泄せむとし、破裂せむとするものあるを睹る、而して此の暗潮流に於 ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ける。苟くも一波瀾の中心となり、一震撼の主点となるものば、乃はち異才 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ なる一つの龍騰水なり、噴火口なり、 大異才は一大龍騰水なり、一大噴火口なり、龍騰水の大なるものは、其の起 こすところの波瀾、亦た随つて大に、噴火口の大なるものは、其の及ぼすと ころの震撼、亦た随つて大なり、豊太閤は近世の一大異才たりしなり、而し   ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ て戦国時代は、箝制もなく、検束もなき、異才の自由競争場たりしなり。天 然的箝制検束、例せば山河の形勢に於いては、便と不便とは免るべからざり                               ・・・・ しところとするも、当時人為的箝制検束は一も之れなかりしなり、異才の前 ・・・・・・・ ・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ には険夷あらず、難易あらず、唯高才疾足を試むべき中原の鹿を見るのみ、 而して異才の尤も大なるもの、竟に他の小異才を自家薬爐中の物となせり、                  ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 中原の鹿は豊太閤の手に落ちたり、異才自由競争場に於ける捷利の桂花冠は ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 豊太閤の頭上に戴かされたり、渠は六十六州を脚跟下に置けり、是に於てか、 大異才は太陽となり、小異才は星辰として立てり、太陽杲杲として中天を指 す、星辰列宿揮へて光彩なし、社会の地平線上には、唯瞳々とる紅日を見る のみ、地平線下の異才、今は日没を俟つて其の光彩を放たむと期するのみ、 太閤は此等異才の光彩を一身に中集して、之を一つの国民的大光彩として、                       ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 之を征韓の役に於いて一時に発射せしめたり、地平線下の龍騰水たる噴火口 ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ たる異才は、今や国民的大龍騰、大噴火として、大陸に向つて其の猛勢と烈 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ とを吐かむとせり、





















輾轉
(てんてん)
ころがる











井然
(せいぜん)
整然

懼(おそ)る

礙滞
(がいたい)
とどこおる

迸発
(ほうはつ)
ほとばしり出
ること

発泄
発散

睹(み)る




箝制
(かんせい)
自由を奪うこと

険夷
(けんい)
けわしいこと
と平らなこと

竟(つい)に

捷利
(しょうり)
勝利

桂花
キンモクセイ

(かれ)

脚跟
(きょうこん)
足元

杲杲
(こうこう)
日光の明るい
さま

星辰
天空に連なる
星座


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