Я[大塩の乱 資料館]Я
2016.3.25

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』 その4

国府犀東(1873-1950)

(偉人史叢 8)裳華書房  1896

◇禁転載◇

徳川時代の社会的暗潮流(2)

管理人註





























覇府時代の
大沈静






























羮に懲りて
膾を吹き噎
に因りて食
を廃す




















処士と武者
修業

征韓の役は酣なり、而して太陽は没せり、世界は闇黒となり、星辰は光彩を 放たむとせり、大陰は皎々として早く業已に、東山の上に昇つて、斗牛の間        ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ を徘徊せり、月の光は星の光を圧せむとす、而して星は業已に光を放つべき 時に逢ふ、是に於て乎、関原の役に於いて一たび衝突し、大坂の役に於いて 再たび衝突せり、而して大陰は勝ち、星辰は敗れたり、是に於いて星辰列宿 は、一つの太陽系統に其の光を失ひ、他の太陽系統に其の光を放たむとせり、                                  ○ ○ 山田長政は逼羅に雄図を布き、伊達正宗は羅馬に使節を遣はす、而して大陰 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ・・・・・・ は一躍して大陽と変したり、星辰は凡べて其の光彩を失へり、異才は鬱塞し ・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ て展ひす社会の地平線下には、龍騰水今や湧出せむとし、噴火口今や破裂せ ・・・ むとす、而かも僅かに其の湧出力と、破裂力との幾分を、海外に泄らすを得 たるか為めに、地平線上には、頼に龍騰の湍上と、噴火の激揚を睹さるを得 たり、社会は破綻なくして畢れり、波瀾も震撼もなくして畢れり、而して元               ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 和定鼎の時代とはなりにき、戦国時代の大波瀾は、覇府時代の大沈静となり ○ ○ ○ 畢りぬ、 而かも社会は表面に於いて沈静なるも、裏面に於ては、常に波瀾を生し、波 瀾を生せむとせり、地平線下には龍騰水伏するなり、噴火口蔵まるなり、覇 府政治は社会の破綻を防曷せむが為めに、経営惨憺、頗ふる綿密に法律制度 の鉅網を敷きたり、 此の龍騰水と、噴火口との上に建設せられたる覇府政治の社会は、端なく西 欧の影響の為めに、一たび破綻を示せり、第十七世紀の欧州に於ける、ゼシ ェエット教徒の雄図たる、海外布教の結果として、東洋の極東に国せる我は、 其の教旨の信者を、侯伯士民の間に扶植せらるゝの猛勢に当るの力なかりき、 而して寛永の島原の乱は起れり、其の年を越へて漸く鎮定に帰したるを睹て も、如何に其の勢の猖獗なりしかを想像するに於て余あるべし、 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・ 是れ確かに覇府政治に対する一大打撃の価値を有せるものにして、熱羮羮に ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ に懲るゝもの往々膾を吹き烈噎に懲るゝもの、時に食を廃す、覇府為政者は、 ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・ 此に海外通商を厳禁し、三檣船製造を許さず、膨張せむとせる社会の機運を ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 人為的に法制の力を以つて之を収縮せしめたり、社会は全く孤立鎖国の状態                   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ となり、外に発泄する欠隙を有せる、社会の龍騰水と噴火口は、全然圧抑せ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ られ、封鎖されたり、圧されて鬱塞し、封鎖されて磅たり、参勤交代と文 学奨励とは、此の鬱塞し、磅たる社会を慰籍する魔薬剤として、侯伯と士 民とに与へられたり、伊達正宗の如き、前田利家の如き、黒田如水の如き、 渠等は皆な一鼓冲天のを収め、昇平時代の愚と狂とを装ひて、空しく有為 の資を齎らして終れり、而して関原大坂二役以来の失意者たる故老は、今尚          ● ●      ● ● ● ● ほ存在するなり、処士なるもの、武者修業なるものは、戦国時代の遺物とし                               ・・・・ て社会の一現象となれり、而して異才は多く此の種の社会に隠る、而かも世 ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・ は門閥と格式とを以つて、秩序井然亦た驥足を展はすの余地を許さず、収縮 ・ ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・ し、閉鎖せられたる社会は、今や箝制と束とを以つて上下を分たれ、貴賤 ・・・・  ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ を別たる、異才自由競争の場は、全く箝制の区束の■と変したり、是に於 いて箝制と、束とに耐えさる異才は、疾呼して起たむとす、



(たけなわ)
物事のまっさ
かり

大陰
暦注の八将神
の一、土星の精

皎々
(こうこう)う
明るく光り輝
くさま

業已
既に

逼羅
シャム

羅馬
ローマ



泄(も)らす

湍上
(だんじょう)

睹(み)さる


畢(おわ)れり

























猖獗
(しょうけつ)
猛威をふるう
こと

羮(あつもの)に
懲(こ)りて膾
(なます)を吹き
噎(えつ)に因り
て

檣船
(せんきょう)
帆柱




(ほうはく)
混じり合って
一つになること

(かれ)

(かく)


齎(もたら)らし






驥足
(きそく)

箝制
(かんせい)
自由を奪うこと


■
文字不明


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