徳川時代第
一回の激龍
騰活噴火
文学と任侠
和学者と
戯作者及
び侠客
松平定信
時代の三
大責務
|
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
由井正雪は処士を以つて、覇府顛覆の陰謀を図画せり、是を徳川時代に於け
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ● ● ● ● ● ●
る第一回の激龍騰と活噴火となす、是れより処士と武者修行とは覇府政治の
一大妨害者として、厳粛なる警察眼の下に置かれたり、山鹿素行の如き、熊
・・・・・・・・・・
沢蕃山の如き、頗ふる覇府の注目するところなりき、是に於て箝制は益重く、
・・・・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・ ・・・・・・・・・
束は、益強くなりぬ、主権の作用には、天下何者か、克く抗するものが抗
・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
するものは刑辟立ところに至る、鼎刀鋸は毎に異才の目前に置かるゝなり、
社会の地平線下に伏蔵する龍騰水と噴火口、是に至つて鬱として発するを得
ず、凝つて泄らすを得ず、
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
一方には文学を旗幟として発し、一方には、任侠を徽章として泄る、仁斎徂
徠は、東と西に文学を以て立てる処士なりき、平民なる弱者の擁護者たる侠
● ● ● ● ●
客も、其の勢力を社会の下層に有するに至りたりにき、而して文学と任侠と
は、相対して久しく覇府以外に立つ能はす、新井白石、室鳩巣の如きに至つ
ては、竟に覇府の爪牙となるに至り、亦た処士の風なし、独り平民の擁護者
としては、今や唯侠客を見るのみ、処士業已に覇府の同臭を帯ふ、是に於て
か、儒者以外に別に一種の処士を見る、彼等は侠客と共に覇府以外に立つ一
● ● ● ● ● ● ● ・・・・・・・・・・
つの勢力たりしなり、和学者及戯作者は即ち是れ、異才の覇府治下に立ち、
・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
門閥と格式との箝制と、束とを屑とせざるもの、今や侠客たらすむは文筆
・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
者となるの外、之を迎ふるに公明正大なる出処進退を以てせしむるの門戸な
・
し、而して覇府と曰はず、諸侯と曰はず、中央官府にも、地方官府にも、内
閣の勢力は、府中を侵触と来るに至り、異才の醇ならず、正ならざるもの、
・・・・・・・
日に之れに縁して、陰謀を企つるもの多きに至る、而して社会は田沼時代
・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・
に至りて腐敗の極、堕落の極に達し奢侈風をなし、驕恣俗をなす、天明の饑
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・
饉は国家経済を根底より動揺せむとしたるより、竟に松平定信の革新断行時
・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・
代を現出するに至りしなりと雖とも、田沼時代に業已に山崎闇斎の影響を受
・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・
けたる一派の異才は、早く王室の式徹を欺するの声を泄らし、山縣大弐の如
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・ ・
き竹内式部の如き夙に覇府政治の専横を慨して、王政の振はさるを嘆し、又
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・
た一方には徳川光圀が大日本史の編纂も端なく王覇衝突の原因として、業已
・・・・・・・・・・・・・・・・ ○ ○ ○ ○ ○ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
に享保時代に其の淵源を置けるより、定信時代は、田沼奢侈余弊の革新と飢
● ● ● ● ● ● ● ● ○ ○ ○ ● ● ● ● ● ● ● ○ ○ ● ● ● ● ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
饉歳後経済の整理と、及ひ名教思想の確立との、三大責務を有する大有為の
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
時代なりしなり、
|
刑辟
(けいへき)
刑罰
(かく)
かま
泄(も)らす
竟(つい)に
業已
既に
醇(じゅん)
縁
(いんえん)
縁故などの関係
驕恣
(きょうし)
おごりたかぶっ
て、ほしいまま
に振る舞うこと
|