規定に関
する法理
的観察
道徳法上
の主権者
洗心洞風
紀振蕭律
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第一條は総則なり、以つて師弟の干繋を規定す、師は行法の権利を有し、子
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弟は遵奉の義務を有す、師は命令し、子弟は服従す、是に於いて師弟の名分
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は明なり、此の條項は即ち師に与ふるに行法と命令との権を以てするの規定
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なり、下文諸條件の大本、是に於て立つ、
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第二條は、法律全部違犯者に対する制裁処分を規定す、中途にして、荒業廃
学陥 奸細邪淫 ものは、洗心洞規約の各條項に、全体的に違犯するものなり、
此の徒や、固より学堂に出づることなきもの、故に預しめ之れが制裁を規定
し置きて、之れか父兄たるものをして之を知らしめ、以つて此の如き罰金科
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料と、同然の性質を有する制裁を加ふるなり、直接本人に肉体的に苦痛を与
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ふるを得ざればなり、其の応 其家之貧富 使 購 某所 告之経史 以出 、焉、
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と曰ふを見るに、全く罰金科料を課すると、同一の性質を有るす、以下諸條
皆な刑法的制裁処分を規定す、
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第三條は稗史小説等雑書の禁を犯かすものは鞭朴若干、肉体的の苦痛を与へ
て之を懲治す、
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第四條は、日課順序顛倒の禁制違犯者に対する制裁処分を規定す、同じく鞭
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朴若干、
第五條は、悪友に交はり、及び放蕩するに就ての、禁制違犯者に対する制裁
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処分を規定し、其の譴第二條の規定に準拠す、是れ其の違犯行為の性質相似
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たればなり、唯其の違犯行為の時間に長短あるの差別あるのみ、
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第六條は塾生出入規定と、及び之に対する違犯者処分とを規定す、亦た鞭朴
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若干の譴を制裁となす、
第七條及び第八條は、子弟の父兄と、師家との干繋を密接ならしむるを趣意
とす、共に命令のみにして禁制なし、
第九條は、国法上の犯罪者に対する、塾内法律上の規定なり、
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此の如く平八は法律思想を以つて、塾内の規約を定め、道徳法を基礎として、
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法律的制裁を適用せり、平八は実に洗心洞内命令権の主体なりしなり、而し
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て子弟は即はち之れが客体なりしなり、平八は道徳法上に於ける絶対無限の
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主権者たりしなり、洗心洞は一つの道徳法上の国家の如とし、而して平八は
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之れが君主なり、君主は其の司法権を一定の機関に委任することあり、居然
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以上の法律的條項は凡べて平八の委任を受け。之れが代表たる塾生之れを適
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用して其の司法権を行使するなり、是れを洗心洞に於ける教育制度の概況と
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なす、洗心洞の風紀は此の法律を以つて維持され、振蕭されたるなり、而し
て平八が司法官として吏務を処理するに於いて、周官大司馬の法に則とり、
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穣苴孫武が寵臣を斬り、愛姫を斬るの筆法を学びたるに睹なば、其の塾内法
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律の執行に於ても亦た、厳明仮借するところなかりしを想像するに於いて余
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りあるべし、而して洗心洞の風紀が此の法律を以つて振蕭されたるものとせ
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ば、之を洗心洞風紀振蕭律と名くるも亦た不可あるなかるべし、
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睹(み)な
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