黄塵の底
共に語る
べきなし
頼久太郎
と大塩平
八郎
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黄塵の底共に語るべきなし○頼久太郎と大塩平八郎○平八芦雁の図を山
陽に贈る○山陽の為めに茶山の遺杖を捜る○佩刀一口日本外史を寄せら
るゝに報ゆ○山陽平八の尾張に之くを送る○山陽と最終の会歓をなす
○山陽と平八との学術上の方針
文政四辛巳の歳、大坂弓奉行近藤守重が免黜せらて小普請入となり、「丈夫
非 無 涙、不 灑離別間、伏 剣対 樽酒 。耻 為 游子顔 。」を吟破して、平
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八に送られ、平八に別れ去りてより、平八は一笑眉を軒け目をミし、共に肝
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胆を披き、胸中磊 の奇を坐に向つて抛つの知友を失へり、浪華城頭黄塵滾
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々の底、亦た共に語るべき尤物を見ず、幸にして此の年を以つて高井山城守
実徳の来つて市尹となるあり、一方には之れが知遇を受けて、吏務に其の英
才の一端を泄らし、一方には、洗心洞裏に同志を集めて、聖賢を論し、英雄
を罵るを以つて、僅かに其の牢騒壱鬱の悶を排するを得たり、而かも電眼爛
々、八紘を睥睨し、鷹肩稜々、天下に横行せむとする渠れ平八は、未だ一代
の俊髦、一世の翹楚たる英才と膝を接し、掌を拊つて、議論を上下し、懐抱
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相ひ披くの機を得ざりしなり、首を回らして一瞥すれば、幾甸の内、英名夙
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に渙発して、才気宇内を圧するもの、当時独り三十六峰外史頼久太郎の、鴨
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涯山紫水明処に偃臥して王侯に事へす、権貴に屈せず、草野布衣の処士を以
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つて心を百代の表に涵し、骨を千古の上に欹たゝしめ、史眼古今を照らし、
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学識万夫に秀つるあるを睹るのみ、而して平八と久太とは、早く已に相識れ
○
り、
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翹楚
(ぎょうそ)
才能が衆にぬ
きんでてすぐ
れている人、
俊秀
石崎東国
『大塩平八郎伝』
その31
免黜
(めんちゅつ)
地位を下げる
こと
軒(あ)け
尤物
(ゆうぶつ)
多くの中です
ぐれたもの、
逸物
泄(も)らし
俊髦
(しゅんぼう)
翹楚
(ぎょうそ)
俊秀
拊(う)つて
欹(そば)たゝ
睹(み)る
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