Я[大塩の乱 資料館]Я
2016.5.25

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』 その54

国府犀東(1873-1950)

(偉人史叢 8)裳華書房  1896

◇禁転載◇

知友に一代の翹楚多し(2)

管理人註
































平八芦雁
の図を山
陽に贈る

越へて文政八甲申の歳八月、久太郎詩藁を提けて大坂に游ふ、是れより先き 久太郎屡京摂の間に往来し、夙に平八の名を聞き之れに過きり、一見旧知の 如く、意気相投し、酒を把つて高談膝の前むを覚えさりき、平八時に陽明全 集を攤出し、談し来り談し去り、滔々として太虚の理を説く、久太亦た其の 論を愛し、乃はち全集を借り、更に痛飲して去る、此の時壁間に一幅芦雁の 図を挂けたり、趙子壁の筆にかゝる、久太之を見て図を朶ること良久、竟に 辞し去り、陽明全集を読み畢り、七絶一首を附して、之を還へす、      読王文成公集                      ・・・・・ ・・   為儒為仏姑休論。吾喜文章多古声。北地粗豪歴城険。   ・・・・・・・   尽輸講学老陽明。 是れより久太と平八とは、頗ぶる親密なる交情を通せり、故に久太の大坂に 出づるや、先づ平八を訪ふを例とせり、今回の游坂、亦た先づ平八郎の洗心 洞に過きれり、洞は天満川崎に在り、相逢ふて先づ酒を喚ぶ、主客献酬して 興、方さに闡なり、久太復た彼の芦雁の図を熟視して之を獲むと欲するもの ゝ如とし、平八其の色を見て、断然愛を割き、之を壁間より撤し来り、すら /\と巻き収めて、久太の前に差出し、其愛蔵の書幅には候へど、卿が詩興 の一助にもなり候ひなむ、進呈致すべしと言ひれば、久太喜の色満面に溢る れども、流石其の割愛のあまりに果決なるに愕き、しばしは茫然たりしか、 やがて結搆の贈物、然らば遠慮なく頂戴仕らむとて、竟に之を受けて立ち去 れり、久太は喜悦に堪えず、乃はち長句一篇を賦して之を謝せり、     大塩君子起贈吾趙子璧芦雁図、謝以長句。時文政甲申秋八月也。                        頼 山陽   曾酔君家公退余。酒酣耳熱呼嗚嗚。怪底惨慄肌欲粟。壁挂霜渚宿雁図。   ・・・・・・・ ・・・ ・・・ ・ ・・・ ・・ ・・ ・・・ ・・・   四雁相暁月底。両隻縮頭眠未蘇。一隻側翅掻癢起。一隻張目是雁   ・ ・・・  ・・・・ ・・・ ・・・ ・   奴。誰能画。此趙子璧。欸題如新墨欲滴。入君樊籠吾頤画雁難                           ○  ○ ○ ○  ○  ○ ○   於生雁獲。何料江南再逢時。早察吾色輟遺。繋舟君家君雁。    ○  ○ ○  ○ ○ ○  ○   ○ ○ ○ ○ ○  ○ ○    ○ ○ ○ ○ ○ ○  ○   併月併霜巻懐之。酒醒灯底疑是夢。一幅嗷嗷真在茲。嗚呼宝絵人                           ○ ○ ○ ○ ○ ○  ○   称煙過眼。語及得喪其目。割愛快并刀断。此情江水深無限。    ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○  ○   ○ ○ ○  ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   稲梁謀拙吾自知。絵途険君不疑。隠顕雖異本同類。相聚時如画中姿    ○ ○ ○ ○ ○  ○ ○   観君羽儀漸雲逵。     是れより交情益密なり、









攤出
(だんしゅつ)



挂(か)け

良久
(ややひさしく)



井上哲次郎
「大塩中斎」
 その13














(あきらか)


















『洗心洞箚記』(抄)
 その37


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