Я[大塩の乱 資料館]Я
2016.3.28

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』 その7

国府犀東(1873-1950)

(偉人史叢 8)裳華書房  1896

◇禁転載◇

徳川時代の社会的暗潮流(5)

管理人註





天保の飢饉












極端社会
主義と王
覇衝突













徳川時代
第二回激
龍騰活噴
火



















救民の旗
天誅の旆

而して当時松平定信を擢むてゝ、鋭意治を図りたる将軍家斉は、漸く政に倦 み始めたり、水野忠邦の英果明截を以つてするも、未だ其の抱負を実行する               ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ の機を得ざりしなり、而して天保の飢歉は経済界の大恐慌を来たせり、社会                       ・・・・・・・・・・・・ の下層は言ふに忍びざる惨状を呈するに至れり、然かも異才は之を傍観する ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・ に忍びずと雖ども、亦た之を救済し撫恤するの実力を有せず、彼等は社会の ・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・・・・ ・・・ 下層に屈撓し、雌伏するが故に、其の同情は尤も多く、此等の窮民に向つて ・・・・・・・ 表せらるゝなり、其の尤も激烈なるものは、竟に極端社会主義たる共産主義                             ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ に類似の説を唱へ、之を実行せむとするものあるに至れり、此の共産主義的 ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○  ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 運動は、特に名教思想上、王覇の衝突に対する、勤皇主義的観念の為めに、 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 益其の激動と軒昂との度を高めたり、社会地平線下の龍騰水は激揚せり、噴         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・ 火口は破裂せり、救民の旗幟は浪華の湾頭に樹てられたり、果然として大塩 ・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 平八郎は、此の龍騰水と噴火口との幾分を代表して飛躍せり、而して覇府顛 覆、王政復古の機運は日一日に其の速度を増加して、社会の裏面を進行す、 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ 大塩平八郎は実に徳川時代に於ける第二回の激龍騰たりしなり、活噴火なり ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ しなり、社会を波動したり、震撼したり、而して徳川時代に於ける社会的暗 潮流は、漸く地平線上に、其の波瀾と、震撼とを表出せむとす、 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ 天驥空に躍らんむとす、躍らすむは必す狂す、蝮蛇人を螫さむとす、螫さす ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・ むは必す自ら螫す、異才は門閥の箝制と、格式の束との社会には、空しく ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・・ 地平線下に轗軻たり、牢騒たるを免れす、桟豆と槽櫪とは、天驥の志にあら ・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・ さるなり、草沢と厳阿とは、蝮蛇の居にあらさめなり、躍らすむは止まさる ・・ ・・・・・・・・・・ なり、螫さむは已まさるなり、是に於つて地平線下の龍騰水たり、噴火口た る異才は、社会地平線の欠隙に乗して、其の猛勢と烈とを破裂激揚せしめ         ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○     ○ ○    ○ ○ ○ むとするなり、天保の飢饉は竟に大塩平八郎をして、「救民」の大旗と、    ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ 「天誅」の流旆とを樹てしむるに至れり、此の龍騰と、此の噴火、是れ即ち ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 元和肇基以来、間断なく社会の裏面に、下層に、流通したる社会的暗潮流の ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 一騰ミなりしなり、一波瀾なりしなり、此の騰ミの主動力、此の波瀾の中心 ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 点たる者か、大坂の処士、大塩中斎其の人なりしとは、覇府歴史に特筆大書 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ すべき所たること、因より言を俟たさるなり     ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆    閏秋十一日早起、歩到水辺偶看水辺。偶看水揮賦。                          中斎 大塩後素  暁行不閑鴎。欲吾纓水頭。江源昨夜応須雨。   翻化清流濁流。     春暁即事  漏声夜半雨声催。夢裡春愁在落梅。暁起推窓還一快。  松陰苔暈射檐来。     代人咏禁中梅花  上林移植出塵標。千朶傷残暴雨霄。万一佗時不実。  君主何以鼎羹調。


擢(ぬき)む


飢歉
(きけん)






屈撓
(くっとう)
屈服する
こと

竟(つい)に


名教
儒教

軒昂
(けんこう)
意気が高く
上がるさま











(き)
日に千里を走
るほどの名馬

蝮蛇
まむし

螫(さ)さむ

轗軻
(かんか)
思い通り運ば
ず不遇なさま

桟豆
(さんとう)

槽櫪
(そうれき)
馬のかいば
おけ

草沢
(そうたく)
草原と湿地

(はい)
旗










大塩中斎
「詩 集
 


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