Я[大塩の乱 資料館]Я
2016.8.9

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』 その85

国府犀東(1873-1950)

(偉人史叢 8)裳華書房  1896

◇禁転載◇

救民の幟影(6)

管理人註





























獅子竟に
奮進す






































富豪の家
宅を焼く

                               ● ● ● ● 平八は一方には当時の秕政を罵倒し、幕吏の非を鳴らし、一方には王畿賑恤 ● ● ● ● 窮民救拯の二大眼目を喝破し、以つて天誅の挙の已むを得ざるに出つる所以           ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ を述べたり、而して其の方法として貪婪なる浪華富豪の倉庫を発ばき、之れ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ が金穀を道路に積み、以つて集まり来れる窮民の自在に之を取るに一任せむ ○ ○ ○ ○ ○ ○  ・・・・・・・・・ ・・・・・ ・・・・・・ ・・・・ とはするなり、而して陣太鼓は震き、大筒は轟き、烈天を燬き、剣光閃々、 ・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・ 集る窮民も何んぞ克く近かむや、近いて之を取るものなし、是に於てか金穀 ・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 山の如きも、亦た何の用あらむ、而して金穀は凡べて焦土余燼と化し畢りぬ、 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 平八は大に失望したり、而かして檄文は四方に伝へられ摂河泉播村々の神社 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 仏閣に粘し掲げられたり、 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ 猛士は崛起したり、獅子は奮進したり、雷霆は撃てり、霹靂は発せり、噴火 ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ は迸れり、救民の幟と桐紋の旗とは天満街頭の朝風に翩々として翻かる、而 て真先には天照皇大神宮、八幡大菩薩、湯武両霊王の十六字を書きたる一大 流旆は推し立てられたり、牙旗の下には大将平八、鍬打つたる兜の緒をしめ、 黒地に桐紋の戦袍、采配採つて中軍に扣へたり、先陣は養子格之助、殿は瀬 田済之助、左右翼には摂播河泉江勢より来れる燕趙悲歌の士、大筒の音を相 図に火を放つて進む、行く/\、会するもの総計二百人余、 ・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・・・ 声は轟ろきぬ、火は熾え揚がりぬ、東北の風は方さに急なり、急なる風は ・・・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・ 火の手を吹き荒らし、炎々たる火は、天に渦まき、地に渦まき、雲をば焦 ・・・・・・・・ ・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・ かし石をば飛ばし、叫ぶ鬨の声、壊はるゝ太皷の音山海も裂けなむ、河嶽も ・・・・ ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・ 掀りなむ、早や浪華城の一角は、見る/\劫火蕩然の区とは変じたり、渦ま く煙と焔とに救民の旗は巻き上けられて、早や天神橋まて進みたれども、橋 板は業已に撤せられて渡るを得ざれば、転じて難波橋指して進み行けり、不 意に愕ろき用意さへ整はざる幕兵、こゝに早や身を緊めて来り邀へり、猛士 の一群猛けり振ふ勢には、何かは以つて抗し得む、大筒一発の下に邀撃の兵 は退き散れり、押し寄せ/\今橋筋をば攻め立て焼き立て、筒先揃へ鴻池善                   ・・・・・・・・・・・・・・・・ 右衛門の居宅見掛けて、撃てかゝれり、空に峙ふるばかりの大厦鉅屋轟然一 ・ ・・・・ ・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・ 発、棟は摧け、柱は裂け、巻き上りたる猛に渦まかれて、中天より覆る有 ・ ・・・・・・・・・・・・・ 状、猛士の一群は快哉と叫びたり、続いて三井、岩城の呉服店を焼き払ひ、 平野町に出でて、平野屋鉄五郎の家宅にと火を掛け、淡路町を焼き、討した   ・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・ ればこゝにも火の手八方に起こり、猛然烈風を帯びて荒れ巻く火焔は、一時 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ に浪華の八千余戸を黒煙に付し去り、天を蔽へる焔、地を捲く煙、悽日黯憺 ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・ 惨雲幕々悽日為めに焦げ、惨雲為めに爛る、   火先八方に相成、一時に所々大火に成、誠に大騒動申迄も無之、火役火           ・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・   消に参り候得共、かの通り鉄炮にて打倒され候故、一人も掛るものなく、   火は燃次第、南御町奉行所も鉄炮並鎗刀抜身にて持、右くせものを御   召捕に御向候故、是ぞ誠に軍のことゝ市中の周章いはん方なく、皆な/\   近所へ逃走り候者計にて、女子供の泣叫声、目も当てられぬ有状に候                      (二月二十日早馬の附状)









貪婪
(どんらん)



燬(や)き









崛起
(くっき)
にわかに事が
起こること

雷霆
(らいてい)
かみなり

迸(ほとばし)れり

翩々
(へんへん)
軽やかにひる
がえるさま


殿
(しんがり)












掀(もちあが)り










邀(むか)へり

邀撃
(ようげき)
迎え撃つ

峙(そび)ふる

大厦
(たいか)
大きな家

摧(くだ)け



平野屋鉄五郎
平野屋五兵衛か





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南御町奉行所
両御町奉行所か


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