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「大塩の乱関係論文集」目次

救民の幟影（５）		管理人註
羽檄を摂 河泉播に 飛ばす	かくて満坐は打ち揃い、用意も業已に整へば、去来進まむと、近村の農民を 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ○　○ ○　○ ○　○ ○ ○　○ ○　○ ○　○ ○　○ 各部署して、大筒の車を門まで引き、茲に救民の字筆太く染め貫きたる一 ○　○ ○　○ ○　○ ○ ○　○ ○　　　○ ○　○ ○　○ ○ ○　○ ○　○ ○　○ ○　○　　 ○　○ ○ ○　　　○ ○ ○ の幟をば推し立てたり、而して早く業已に天誅の檄文は、南村北落、摂津河 ○　○ ○　○ ○　　　○ ○ ○　○ ○　○ ○　○ ○　○ ○ ○ 内和泉播磨、こゝかしこに飛ばされたり、 　四海困窮致候はゞ天禄永がく絶えん、小人国家を治めしめば災害至ると、 　昔の聖人深く天下後世、人の君、人の臣たる者を御誡め置れ候故、東照神 　君も、鰥寡孤独に於て、最も憐みを加ふべくは、是仁政の基と被仰置候、 　然るに此の二百五十年、太平の間に、追々上たる人驕奢とて、をごりを極 　め、大切の政事に携はり候諸役人ども、賄賂を公けに授受とて贈り貰ひ致 　し、奥向女中之因縁を以て、道徳仁義もなき拙き身分にて、立身重き役に 　経上り、一人一家を肥し候工夫のみに心を運し、其領分知行の民百姓ども 　へ過分の用金を申付、是迄年貢諸役の甚だしきに苦しむ上より、無体之儀 　　　　　　　　　　　　　　　　　　* 　を申渡し、追々入用嵩み候故、四海の万物一体に仁を忘れ、得手勝手の政 　　　　　　・・・・・・・・　　・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 　道を致し、江戸へ上米を致し、　天子御在所の京都には廻米の世話も致さ 　・・・・・・・　・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・　 　ゞるのみならず、五升一斗位の米を買に下り候者を召捕など致し、実に昔 　葛伯といふ大名、其農人の弁当を持運び候小児を殺候も同様、言語同断、 　何国の土地にても、人民は徳川家御支配の者に相違なき所、如斯済を付候 　は、全く奉行等の不仁にて、其上勝手我儘の触書等を度々指出し、大坂市 　中の游民斗りを大切に心得候は、前にも申通り、道徳仁義を不存拙き身故 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　*** 　にて、甚だ以て厚かましく不届の至り、未曾有有福に暮し、町人の身を以 　て、大名ま家老用人格に取用ひられ、又は自己の田畑雑用等を夥しく所持、 　何不足なく暮し、此節の天災天罰を見ながらも思をもいたさず、餓死の貧 　人乞食をも顧みず、其身は膏梁の味とて結搆の物を喰ひ、妾宅に入込、或 　は揚屋茶屋へ大名の家来を誘引参り、高腰の酒を湯水を呑むも同様に致し、 　此難渋の時節に絹服を纏ひ、河原者妓女どもを迎へ、平生同様に遊楽に耽 　り候は、何等のことに候哉、紂王長夜の酒盛も同事、其処の奉行諸役人、 　手を握り候故を以て、右の者共を取〆、下民を救ひ候儀も難出来、日々堂 　島相場計をいぢり候ことを致し、実に禄盗にて、決して天道聖人の心に難 　叶御情なきことに候、蟄居の我等、最早堪忍び難成、湯武の勢ひ、孔孟の 　徳はなけれ共、無拠天下の為を存じ、血族の禍ひを犯し、此度志し有者共 　　　　　　** 　申合、下民困窮と相成候に付、人々上を怨まざる様に成行候へども、江戸 　　　　　　　　　　　　　　　　　 ○　○ ○　○ ○　○ ○ ○　　 ○　○ ○　○ ○ ○ ○　○ 　表より諸国一同右の風儀に落入、　天子は足利家以来、分て御隠居御同様、 　 ○　○ ○　○ ○　○ ○ ○　○ ○　　　○ ○　○ ○　○ ○ ○　○ ○　○ ○　○　　 ○　○ ○　○ ○ ○　○ ○　○ 　賞罰の�ﾈを御失ひに付、下民の怨み何方へ告愬とて、告訴ふる方なき様に 　 ○　○ ○　○ ○　　　○ ○ ○　○ ○　○ ○　○ ○　　　○ ○ ○　○ ○　○　　 ○　○ ○　○　　 ○　○ ○ ○　○ 　乱れ候に付、人々の怨気天に通じ、年々地震火災、山も崩れ、水も溢るゝ 　 ○　○**** ○　○ ○　○ ○ ○　○ 　より五穀飢饉に相成候、是皆天より深く御誡めの有難き御告に候へども、 　一向上たる人、心附ず、猶小人奸者の輩ら、大切の政事を執行ひ、唯下を 　悩し金米を取立る手段斗に打懸り候、以て小前百姓共の難儀を、我等如き 　者、草の陰より察し恐れ候へ共、湯王武王の勢位なく、孔子孟子の道徳な 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　・・・・ 　けれども、徒らに蟄居致し候所、此節米価珍しく、高直に相成、大坂の奉 　・・・・・・**　・・・・・・・・・・・・・・・　・・・・・・・・・ 　行並諸役人ども、悩し苦しめ候諸役人共を誅戮致し、引続き驕に長じ居候 　・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・　・・・・・・・・・・・ 　大坂市中金持の町丁人共を誅戮に及び可申候間、右之者共穴蔵に貯へ置き 　・・・・・　・・・・・・・・・・・　・・・・・・・・・・・・・・・ 　候金銀銭等、諸蔵屋舖内に隠置候俵米、夫々分散配当致し遣し候間、摂河 　・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・　・・・・・・・・・・・ 　泉播の田畑所持致さぬ者の仮令所持致し候とも、父母妻子家内の養方難出 　・・・・・・・・　・・・・・・・・・・　・・・・・・・・・・・・・ 　来程の難渋者へは、右金米等取せ遣し候間、何れにも大坂市中に騒動起り 　・・・・・・・・　・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・　・ 　候と聞伝へ候はゞ、里数を厭はず一刻も早く大坂へ駈付可参候面々へ、右 　・・・・・・・・・・　・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 　の米金を分遣し可申候、鉅橋鹿台の金粟を下民へ与へ遺さる志ざしにて、 　・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 　当時の飢饉難儀を相救ひ遣し候、若又其内器量才力等有者には夫々取立、 　・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 　無道の者共を征伐致し候軍役にも遣ひ可申候、必ず一揆蜂起の企てとは違 　ひ、追々年貢諸役に至る迄軽く致し、都て中興神武帝御政道の通り、寛仁 　大度の取扱に致し、年来驕侈淫逸の風俗一統を相改め、質素に立戻り、四 　民天恩を難有存じ、父母妻子をも被養、生前の地獄を救ひ、死後の極楽成 　仏を眼前に見せ遣し、堯舜天照皇太神之時代に復し難くとも、中興の気象 　に恢復して立戻り申べく候、此書付一々村々ヘ知せ度候得共、夥多のこと 　に付、最寄人家多候大村の神殿へ張付置候間、大坂より廻し有之番人共に 　知せざるやう心懸、早く村々へ相触可申候、万一番人等目付、大坂四ケ所 　の奸人共へ注進致し候様子に候はゞ、遠慮なく面々申合せ、番人を打殺し 　　　　　・・・・・・・・・・・・・・　・・・・・・・・・・　・・・ 　可申候、若大騒動起り候を承はりながら、疑惑致し駈参り申さず、又は遅 　・・・・・　・・・・・・・・・・・・・・　・・・・・・・・・・・・ 　参及候はゞ、皆金持の米金は火中の灰に相成、天下の宝を取失ひ可申候間、 　・・・・・・・・・・　・・・・・・・・・・・・・・・　・・・・・・ 　跡にて必ず我等を恨み、宝を捨る無道者と蔭言を致さぬ様、其為一同へ触 　・・・・　・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・　・ 　知らせ候、尤も是迄地頭村方に有る年貢等に係はり候諸記録帳面類は、都 　・・・・・・・・ 　て引破焼捨可申候、是往々深き慮り有事にて、人民を困窮致させ申さぬ積 　りに候、乍去此度の一挙、当朝平将門、明智光秀、漢土の劉裕、朱全忠の 　謀反に類し候と申すとも、是非無之道理に候得共、天下国家を簒盗致しす 　慾念より起り候ことには更に無之、日月星辰の神鑑にある事にて、詰る所 　は、湯武、漢高祖、明大祖、民を吊ひ、君を誅し、天罸を執行候誠心而已 　に候、若し疑はしく覚候はゞ、我等の所業終る所を爾等眼を開き可看、 　但し此書付は小前の者へは、道場坊主、或は医者等読聞せ可申候、若 　　庄屋年寄、眼前の禍を恐れ、一己ニ隠し候はゞ、追て急度其罪に可行候、 　　　 ◎　◎ ◎　◎ ◎　◎ ◎ 　奉天命致天罸候 　　天保八丁酉年月日 　摂河泉播村々庄屋年寄百姓并小前百姓共へ と滴々たる熱血を迸して天誅一挙の趣意を遠邇に布告し、之を黄絹の状袋に 裏して四方に飛ばしたり、 　　　 　 　天より被下候 　　　　村々小前のものに至迄へ
大塩檄文 向江 強 「檄文の思想を探る」 その１２５ *以下 **〜** までが入る 上米 「廻米」 斯済 「斯隔」 ***以下が脱 且三都之内大坂 之金持共、年来 諸大名へかし付 候利徳之金銀并 扶持米等を莫大 ニ掠取 雑用 「新田」 思 「畏」 高腰 「高価」 御情 「御赦」 ****以下脱 「外、色々様々の 天災流行、終ニ」 珍しく 「弥」 天罸 「天討」 天罸 「天討」 遠邇 (えんじ) 遠い所と近い所