救民の幟
影は消失
せぬ
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かゝる有る状なれば、近づくことも叶はず、たとへ鴻池、三井、岩城、平野
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の諸富豪に闖入し、其の倉庫を毀ち、其の金穀を散するも、火の手は急なり、
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剣光は閃けり、砲声鼓声は轟けり、孰れか敢へて近かづくものぞ、平八は怒
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れる眼に涙を浮べ、民共何とて近かつかざると、一長嘆大息を発したり、
火勢は急なり、猛士は狂へり、狂へる猛士の一群は、今や淡路町に火を放つ
て進む、奉行が率ゆる一隊の幕兵、こゝを阨して防かむと、筒先揃へて待ち
掛けたり、猛士隊は進み来れり、其の勢は当るべからず、幕兵沮みて退かむ
とするとき、幕兵の中より躍り出でたる射術の達人坂本弦之助、こゝ一奮発
と狙をためて、猛士隊を見掛け、安田図書をば射て創けゝれば、猛士隊、軍
気俄然一変、旗色乱れむずる勢なれば、平八今は是れまでと、猛士の一群を
さま/\諭して、潰散せしむ、而して平八も其の乱軍に混ぎれて、何地とも
なく落ち延びたり、追蹟するを阨せむと猛士の剛者数人は、踏み留つて縦横
奮闘、各十数人を創け殺したり、幕兵死するもの此の時を尤も多しとなす、
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救民の幟影、今は見へずなりぬ、桐紋の旗章、今は消へ失せ畢りぬ、
而して猛焔は依然として猛勢を逞ふし、烈火は依然として烈威を縦まゝにす、
延焼凡そ五千余戸、半焼半壊合せて一万余戸、火翌二十日、黄昏に抵りて漸
く熄す、満目凄涼、四衛八街、蕩然として烏有に帰す、
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かくて獅子の影だに見えず、雷霆は収まり、霹靂は蔵まり、噴火は熄めり、
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而して遠近猶ほ騒然、岸和田、尼崎城主、各兵を発して大坂城を守る、而か
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も獅子は吼へず、雷霆は撃たず、霹靂は発せず、噴火は迸らず、
仲冬東郊見 池蓮衰枯 大塩後素
万生翕闔迹無 些。此説竊 於釈老家 。 了 義文前後妙 。
更看水底未 開花。
題宇治川先登図
慎独無 論武与 文。工夫徹処破 千軍 。何況同済心上戦。
知言寧奪済川動。
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阨
(やく)
ふさがる
沮(はば)みて
安田図書
梅田源右衛門
坂本鉉之助
「咬菜秘記」
その12
抵(あた)り
熄(や)めり
「大塩焼け 被害一覧」
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