陽明の社会主義敵観念、及び其の理想的国家、実にの如き者あり、
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特に其の「天下之人心、其始亦非 有 異 於聖人 也」と曰ひ、「復 其心体之
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同然 」と曰ひ、聖人と凡人との間に、振古以来 然として横はれる、堅牢不
抜の一大関門を、一撃摧破して、聖人と凡人との平等を喝破したるに至りて
は、痛絶快絶、千古一大快心の事、其の門生聶豹に答ふる書に於いて、
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  良知之在 人心 、無 間 於聖愚 、天下古今之所 同也、世之君子、惟務 
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  致 其良知 、則自能公 是非 、同 好悪 、視 人猶 己視 国猶 家、而以 
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  天地万物 為 一体 、求 天下無 治不 可 得矣、古之人、所 以能見 善不 
  啻若 已出 、見 悪不 啻若 已入 、視 民之饑溺 、而一夫不 獲、若 已
  推而納 諸溝中 者、非 故為 是而以  天下之信 己也、務 致 其良知 求 
  自謙 而已矣、堯舜三王之聖、言而民莫 不 信者、致 其良知 而言 之也、
  行而民莫 不 説者、致 其良知 而行 之也、是以其民煕々 々殺 之不 怨、
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  利 之不 庸、施而及 蠻貊 、而凡有 血気 者、莫 不 尊親 、為 其良知之
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  同 也、嗚呼、聖人之治 天下 、何其簡且易哉、
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陽明の理想的国家に於ては、天地万物一体たり、一体たるか故に聖なく凡な
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く、賢なく愚なし、自他の分なく、物我の別なし、故に人の善は己の善、人
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の悪は己の悪、翅に聖凡と賢愚との別なきのみならず、又た自他と物我との
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別もなきが故に、悪の人あるなく、愚の人あるなく、又た凡の人あるなし、
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苟くも生を天地宇宙の間に稟くるもの、悉く皆な一体を相成す、再言せば天
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地万物皆な平等に天賦の天分を承くるものなり、唯気質の差異あるによつて
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平等を撹乱さるゝのみ、之を現実の社会となす、此の社会をして本然心体の
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同体なるに復せすむは、陽明は斃ると雖ども止む能はざりしなり、
 
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