「実は私共の悪事を働らきましたのはモウ二十年にもなります、お頭の新左
衛門を先にいたしまして、お頭が一等与力であるのを幸はひ、盗賊共と交は
りまして、其盗賊からは盗んだ物を半分づゝ取上げ、そうして其金で衣服を
買つたり、新町へ遊びに参つたりいたします、誠とに恐れ入りましたことで
いつぞや あなた
ございますが、先年今小町と評判を取たる、只今では貴郎様の御新造様でご
ざいますか、其お方をお頭の新左衛門が非常に執心をいたしまして、誰でも
さら く
其女を拐つて来たものには金子百両下れると仲間へいはれましたから、一同
何時か其今小町娘を拐つてお頭の宅へ連れて参らうと思つて居りましたが、
ふたり
折好き場合もございません、然るに或日、此作造の野郎と両人でスツカリ賭
場で取られた帰り道、天神様の境内へ参りやすと、神の授けか天盗の、お恵
ふだん
みなされしか知りませんが、平生から目を付けて居た今小町娘が、下女と二
人で何か頻りに願を掛け、余念もなげに居りますから、飛立ばかりに喜こん
わざ
で、天の与へた宝を取らずんば、却て禍はひ其身に及ぶといふ言葉もござい
ますから」
「コリヤ/\」
「ヘイ」
「何で天が左様な悪事をしろといつて貴様達に美人を与へるものか」
さ う
「ヘイ、何……、天道様の思し召しは存じませんが、左様いふのは私共の勝
手理窟なんでございます、夫から人の来ぬうち一時も早くと、両人で忽まち
さ る は しあはせ しよひ
猿轡を嵌め仕合好しと背負出した処ろを貴郎様に見付けられたのでございま
す」
「ハヽア、然らば新左衛門は与力の身分にあるまじき左様な悪事を申し付け
しか」
それ
「ヘイ、未だ夫どころではございません、私共に申し付けまして、諸所の豪
家へ押し入り、新左衛門が先棒になつて強盗を働らいたことは数限りもござ
いません」
「ウム、全たく左様か、何じや作造とやら、此奴が申すことに偽はりはない
か」
「ヘイ、只今勘次の野郎が申し上ました通りに相違ございません」
きか
「左様か、然らば貴様達の申した通り書留めてあるに依つて、読聞すから好
く聞て居れ」
といつて大塩平八郎先生、養子の格之助殿に書留めさせました
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