Я[大塩の乱 資料館]Я
2016.2.15

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』 その19

松林白猿 講演

安藤粛太郎速記(英雄文庫 9)萩原新陽館 1901

◇禁転載◇

第四席(4)

管理人註
  

「何じや其通りであるか」 「誠とに恐れ入りましてございます」 「然らば之へ爪印をしろ」  ふたり        お と両人に爪印を捺させ、直に両人を牢へ入れました、翌日に相成りますと、 大塩先生、朝早くより出仕したして高井山城守の御前へ罷り出で 「エヽ、申し上まする」 「是は大塩、早朝よりの出仕、大儀である」 「ハツ」 「何かことが起つたのか」 「ハア、別のことでもござりませぬが、大坂市中より近郷近在へ掛けて、盗 賊の流行いたして居りながら、思ひの外に手の届かざる訳を漸やく探り知り ましてござる」          さすが        いかゞ      いはれ 「ウム、夫は/\、得了は大塩である、如何いたして其元因が分つたな」      かう 「実は是々斯いふ訳でございます」                 わるもの と自分が姿を変へて新町へ入込み、悪漢勘次、作造の両人を召捕りたること    くちがき を話し口書を山城守の前へ差出しました、其書を篤と御覧になりましたる高 井山城守」 「ウーム、さればなり、盗賊共の巧みに役人の目を忍び、悪事を心の儘に働 らき得たるは、一等与力の弓削田新左衛門が仕業なりしか、憎くき処ろの弓    削田奴、早速召捕の人数を差向けるが宜らう、彼れ若し手に余らば、飛道具 で打殺すとも苦しからず」                      につこ  えみ と以ての外のお怒りでございます、大塩先生、莞爾と笑を含みまして 「委細承引仕まつりました、併しながら彼新左衛門を召捕る如きに、左様の 多人数を召連れるにも及び申さず、拙者一人御命に依て罷り向ひ申すべし、      おほがう 斯ることは大行にいたしては、却つて耻入る噺しゆゑ、なるべく隠密に取計 らうやうにいたして宜しからんと存じまする」        そこもと  まか          よし 「成程、然らば其許に任するに依て、好なに、取計らはれよ」    かし 「委細畏こまりました」 と其処で大塩先生只一人、弓削田新左衛門の家に向つて歩を進めて参りまし   やが た、頓て玄関に至りますと 「お頼み申す」 と案内を通じますと、取次の者が出で参りますと、吟味役の大塩平八郎であ りますから、実は少し怪訝に思ひましたが 「是は大塩様には早朝よりの御入来、先づ/\お通り下され」 「御主人は御在宅かな」



幸田成友
『大塩平八郎』 
その25


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