Я[大塩の乱 資料館]Я
2016.11.28

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「大塩の乱関係論文集」目次


『日本倫理学史』(抄)その9

三浦藤作 中興館 1943

◇禁転載◇

第三篇 近世  第四章 徳川時代の諸学派
  第二 陽明学派
   第六節 大塩中斎(9)
管理人註
  

  批 判  大塩中斎は純粋の学者ではない。二十七歳から三十七歳までは吏人となり、 三十八歳から閉居して学問に没頭したが、四十四歳の時には謀叛を起こして 焚死した。学問のために心を傾けた年限は甚だ短い。従つて彼の学問は深遠 なる点も該博なる点もなく、其の学説の如きも種々の欠点を有して居る。即 ち著しく独断的であり、粗雑であり、幾多の誤謬と矛盾とを含んで居る。例 へば彼が心外の虚を以て心の本体とし、精神界の空虚と物質界の空虚を混同 したるが如き、心の太虚に帰する人は、水に溺るゝことなしといひて迷信に 陥りたるが如き、今日から観れば非難の余地が尠なくない。併しながら、彼 がたゞ読書に耽り、字句に泥み、経学の精神を取ることを知らざる当時の学 者に反対して、道義の実行を聖学の要旨としたる事、諸説の考証のみに甘ん ぜず、大胆に独創的の思想を発表したる事、学問を実際に活用して其の才能 を事功の上に発揮したる事に就ては、日本の倫理史上に特 筆すべき偉人たるを失はぬ。




井上哲次郎
「大塩中斎」
その29
 


『日本倫理学史』(抄)目次/その8/その10

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