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大塩中斎の門人には、宇津木静区・林良斎・大塩格之助・松浦誠之・湯川
幹・松本乾知・但馬守約・白井履・橋本貞・磯失信・岡本維純・渡辺漸・分
部復・志村善継・大井正一郎・疋田竹翁・秋田精蔵・山口平吉・渡辺重左衛
門・瀬田犀之助・小泉延次郎・橋本忠兵衛・橋本梶五郎・田能村直入・田結
荘千里・分部簡斎等の人々があつた。中にも異彩を放つたのは宇津木静区で
ある。
宇津木静区 名は靖、字は共甫、通称は矩之丞、静区は其の号である。文
化六年(1809)彦根に生れた。詩人として著名なる岡本黄石の実兄である。
十七歳の時京都に出で、頼山陽・中島棕隠に就て学んだが、大塩中斎が陽明
学を大阪に唱ふるに及び、中斎を訪ねて其説を聴き、其の見識に服し、入門
して弟子の礼を執つた。中斎も亦彼の人となりを称し、弟子扱ひをせず、朋
友として交つた。洗心洞に居ること数箇月、去つて中国及び九州を歴遊し、
長崎に留つて生徒を教授した。八箇月程を経て郷里に帰省せんとして大阪に
来た。恰かも其の時中斎は乱を起さんとしつゝあつた。中斎は静区に密謀を
告げて加盟を促した。静区は中斎を諫め、其の挙の非なることを痛論したが、
中斎は容易にこれを聞き入れなかつた。翌朝静区は事の顛末を認めた遺書を
僕の友蔵に託して、郷里の父母に送らんとして居る所へ、大井正一郎等の壮
士が刀を提げて乱入した。静区は従容として死に就いた。時に年二十九であ
つた。著書には「浪迹小草」と云ふ詩集が一巻あるのみで、学説として伝ふ
べきものはない。
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井上哲次郎
「大塩中斎」
その31
幸田成友
『大塩平八郎』
その91
原口令成
「宇津木矩之丞
臨終の実況」
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