Я[大塩の乱 資料館]Я
2015.8.6

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「大塩の乱関係論文集」目次


『最後のマッチ』(抄)
その29

岡田播陽(1873-1946)

好尚会出版部 1922

◇禁転載◇

四四 中斎の黒焦死体

管理人註
  

 『Y君――何日か君の云つてた鏡の池…………』  からか                い  揶揄ひ半分に僕が斯う言で掛けると、    そ れ            こ れ       み  『其話よりも恐れ入りますが、何卒此像を鑑てやつて頂きたいもので…  ………』            い か  『彼の白蛇話をしちや不可ぬ』                いきなり  といつた目配せと共に、Y君は突如、一箇の木像を僕の前へ差出した。              つくりばなし  『さてY君奴!可い加減な作為話をしよつつたのかな…………』                        と僕は心の中に疑ひながら、早速其像を観て鑑ると、三尺有余の観音と も見える弥勒像である。  『はてな?此像や何処かで観たやうだぞ…………』  僕は一見、忽ち斯う叫んだ。而も次の瞬間、昨夜Y君宅に一泊した時、 見た不思議な夢を思ひ出した。    こ れ  『此像や正しく大塩中斎の黒焦死体だ!』             びつくり  文教さんは勿論、Y君も吃驚した。          『先生!貴方怎うかなさつたのですか?』          い    ふたり        まさ  異口同音に斯う叫つた両者の眼は、正しく狂人を見るの不安に輝いてゐ る。    わ け   い               ゆうべ  『事情を話はなけや分るまいがね、実は僕、昨夜、夢に中斎の黒焦死体             を見たのだ…………怎うも不思議な事もあるものだねえ…………其の黒  焦死体が此の木像ソツクリだから驚くぢやないか。』  一座は死の如き寂黙に帰した。                み つ  『わるくすると、中斎の墓は発見からないかも知れないぞ。』       ひとりご  僕は覚えず独語つた。                  こ れ   い つ  『何うも不思議ですねえ。しかし此像は何時頃の作品なのです?』      み つ         偶像を凝視めて偶像の如うに化つてゐたY君の斯の質問に、僕も漸つと                    そ れ 己れを見出したかの如う。併し、仔細に其像を諦視すると、其像は正しく              まが 観音像でも弥勒像でも無く、擬ふ方無き南蛮仏であるのに尚の事驚いた。

    
 


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