Я[大塩の乱 資料館]Я
2015.8.23

玄関へ

「大塩の乱関係論文集」目次


『最後のマッチ』(抄)
その39

岡田播陽(1873-1946)

好尚会出版部 1922

◇禁転載◇

六七 中斎と親鸞、親鸞と日蓮の大闘争(3)

管理人註
  

 『それや親鸞の妻帯したのは、名利の為に人間界から離れて了つて居た          いとま  当時の僧団に永の暇を呉れて、罪も無いのに人間界から駆逐されてゐた  天下の女性を、人間界へ引戻さうとする同情からでもあつたのだが、中    せう   さ         ほうてう         さい  斎が妾を離縁つたのは、自己の放擲それ自身が妻とする為にだつたのだ      そば  よ。然し傍へ行くと恐ろしく、離れてゐると懐かしいのが中斎だ。傍に                           いづ  居ると懐かしく離れてゐると腹立たしいのが親鸞だが、孰れも心の底は  涙だよ。勿論鎌倉初期と徳川末期の相違、京と大阪との相違、非僧非俗  と純僧純俗との相違はあるけれども…………』               あんな  『ぢや親鸞宗と日蓮宗は何故彼麼に犬と猿ですかね。』  『昔は犬と犬だつたがね。』  『犬と犬ちうと?。』   ほか  『他でも無い、本願寺と本国寺とは今だに隣同志だが、或時本国寺が穢      おとな        なか/\ ど し ぶと            なづ  多村から温順しさうで却々奴死太い痩犬を貰つて来て親鸞と名け、「親                あ ら  鸞々々」と呼ばはつて残飯や残肴を与へてゐた。すると、本願寺も人さ  へ見たら吠付きたがる気狂ひ犬を飼つて日蓮と名け、「日蓮々々」と呼                   な か  んでゐた。所が或日の事、両本山の中央程で、親鸞と日蓮とが不図した           ことから喧嘩を行り出した、すると見物は八方から雲の如くに集つて来                        から  る。本国寺も西本願寺も管長から下足番まで寺を空にして声援にやつて                   はだし  来る、両寺の末寺は勿論の事、信徒も跣足で飛んで来た。そして各自宗                  け し  の飼犬に命限り根限り声援する。煽動かける。本国寺派は、「親鸞!負  けるな/\」と名号旗を振り、法鼓を叩き拍子木を打つて命限り絶叫す  る。本願寺派も一宗の浮沈此の一勝負にありと、「日蓮!日蓮!勝て々                   りん         々、勝つて呉れい!」と煽動かける。鈴鳴らす。梵鐘を撞く。念じる。             ・・・・  泣き喚く。親鸞が日蓮をうたわすか、日蓮、親鸞を往生させるかは、両                             おさへつ  宗死活の分岐点でもあるかの如うに、上から出たがる日蓮に圧伏けられ      うん/\ といき  つ  て親鸞が々太息を吐き出すと、法華宗側は真つ蒼になつてブル/\慄                                 え上り、下手から出る親鸞に引つ繰り返された日蓮がキヤン/\吠き出               こぼ  すと、真宗側はポロ/\涙を澪し出す。』         かほつき  阿呆らしさうな顔相をして、その実熱心に聞いてゐたY君、さももどか  しさうに、      どちら  『つまり何方が勝つたのです?』  と御座らつしやる。  『さあ、何方が勝つだらうね。今猶噛み合ひ最中だからなあ。』  『え?』

   


『最後のマッチ』(抄)目次/その38/その40

「大塩の乱関係論文集」目次

玄関へ