わし き
『俺の所へ遊びな来ないか、天女の着る天衣を被せてやる。』
い よろこ
と誘つた。スルト女は飛び立つばかりに歓んで、早速出掛けて行くと、
げだう ぱだか
外道は女を真ツ裸体にさせて、手づから天衣を着せて遣つた。そして手を
う じゆ
拍ち頌を以て其の美しさを讃へると、女は嬉しさの余り無我無宙になつて
踊り出した。外道は鉢を叩いて囃したてる。女はます/\踊り狂つてゐた
まるはだか
が、不図我に返つて見ると、全裸体の儘で何一つ纏つてゐない。吃驚した
へ た ば なじ
やら恥しいやらで、女は忽ち其処へ平太張つて、女は外道を難つた。
ど
『私は何も着てゐないぢやありませんか、天衣は一体怎うなつたのです
?』
『色があつたり形があつたら、天衣ぢやありませんよ。』
い しやば
斯う応つた外道は真面目だ。と慥か娑婆論にあつたやうだが、「一切の
繋縛から人心を解放して、赤裸々浄洒々の人間本源の清浄心を流露せし
ろ しんめんもく ぶつ
め、露堂々たる本来の真面目を発揮せしめん」との仏の大悲心、取も直
かざり
さず性に随ふ易道が暗示されてゐるのである。易に無色を「賁」と云ひ、
しやこ
白きは賁の至れるものだと云ふのも、畢竟這箇の消息を語つてゐるので
さうもく
はないか。草木の生殖器の上向し、人間の生殖器が下垂してゐるのも、
人は常に大自然と交接せなければ、生殖器の横生せる動物に堕落すると
いにしへ
の天啓だよ。古の名工の作つた衣服を纏うてゐる仏像が裸体に観えるの
も爾うした大悲心が籠つてゐるからだ。衣服が肉体に合体してゐ、否、
作者が天衣を纏つてゐるからだ。だから然うした仏像を観て人間を観る
時、人間が仏像に見えるのだ。』
まつたく めぐり
『イヤ真実です。大和巡拝をして大阪へ帰つて来ると、浄土に生まれた
如うな感がします。男女の悉くが仏像に見えるからでせう。はゝゝゝゝ』
はくぜん
黙つて聞いて居た白髯の美少年は斯う曰つてM君の顔を眺めた。M君は
一層鹿爪らしく語る。
かく
『無論それは何人の内部にも蔽されてゐね仏性の発現であつて、仏は人
間の肉体以外に姿を表はさないことが語られて居るのでありませう。』
そ
『併し然うした仏像の生まれた時代の人間は、経典に対しても直ちに其
れ はたらき
経の力用を信じて文義の詮索を忘れたらしいが、爾うした仏像を忘れて
やかま
居る今日、経典文義の詮索ばかり八釜しく云ふのも無理からぬことだよ。』
斯ういつて僕は皆の顔をながめると、
『ナール程な。』
うなづ
Y君は淋しさうな顔して頷いた。
やが ふたり は づ
軅て僕爺の間に有馬問答が端積む。
こ ゝ ゆ な
『しかし有馬は今でも女の中心地でせう。根が湯女のお蔭で発展した土
地でせうから…………』
『所が今は名物の湯女も無くなつて了つて、女は連れ込みばかりですし、
お
風儀も悪く客も劣ちてさつぱりワヤです。』
な
『やがて六甲山が破裂して灰野原に化つて了ひはしませんか。』
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