Я[大塩の乱 資料館]Я
2015.9.21

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「大塩の乱関係論文集」目次


『最後のマッチ』(抄)
その65

岡田播陽(1873-1946)

好尚会出版部 1922

◇禁転載◇

    なまぐ
八八 腥さ坊主の呪ひは精進堅固の高僧の祈りである(1)

管理人註
  

  どなた  『誰方も何卒此方へ…………』    ほてつ   こ ゝ                  酒は頬照た此寺の世話方らしい五十男が、一同をを招びに来た。一同揃 つてゾロゾロ庫裡に入つて行くと、庫裡の大広間には大きな机を置いて酒             いま        たけなは          つ 肴が盛り上げられてゐる。乃し酒合戦が酣らしい。首を縊つたのぢやない かとM君が心配してゐた住職は、  『オヤ先生!御機嫌さん…………』                               そ れ  僕の顔を見るなり座を起つて来て奥へ案内して呉れる。意外にも住職は                   じやくそう 船場の真言寺にゐた快活で洒落で元気な若僧である。             いじ          こんな          ところ  『先生、高野山で三年も苛められた挙句の果に、恁麼仕様も無い寺院へ    放り込まれて困つてまんね。』                              てんご  『金も無い癖に高野山などに三年も居た罰ぢやないかね。イヤ顛娯ぢや                               まん だ ら  ないよ。有馬温泉ですら貧乏人は寄付けないからね、而も況んや寓銀貨  温泉をやだはゝゝゝ』                          くみ  『阿呆らしい!私等は、氷を浴び、イヤ寒夜に曝した置きの水の氷を  げんこ         じき                 ゆ か  拳固で破つて、一採一食で、事相教相を腹に叩き込み、三密瑜伽の業を    修つたのですぜ。十八道から両部曼荼羅、儀軌は勿論、観法観念に骨を  折りましたぜ。』                      うへ  『山中、冷水を浴て観念三昧に入る。それに上越す避暑法もあるまいぢ  やないか。』    う だ  『有駄々々言ひなはんな。寒中の苦行だすがな…………』  『それぢや御祈祷は能う利くだらうね。』     あひて                   きゝめ  『そら対者が本当に信仰して呉れやはつたら、直ぎ効験を顕はして見せ  ますが、そやなけりやあきまへん。』  『すると赤ン坊の病気には絶対に駄目な訳だな。』                        こ ゝ        よ け  『そんな無茶言うて貰ふたら、どうもならん、此寺へは女が余計参りま                       おも  すが、どちらかと云ふと、赤ン坊の病気祈祷が主だすよつてな。』  『イヤ相変らず元気で結構だ。或は君は、女人解禁になつた時、イの一             ばつそん  番に高野へ登つた女人の末孫ぢやないかね。尤も今は解放とも何とも言  はぬ先から、飛歩いてゐる女人が多いけれどなあ。はゝゝゝ』          あ た  『エロー女人に攻撃つて居られますが、其癖男さんばかりで一体何処へ  行きやはりまんのや。』  『大勢の赤ン坊が死にかけてるんで、六甲山中へ御祈祷に来たのだよ。』                   ど      や  『六甲山中で御祈祷…………山中の何の辺で行りやはるんだす?』  『それをこれから捜しに行くのだ。どうだね一緒に行つちやあ。』  『大勢の赤ン坊て、皆さんのお子達だんのか。』  『お子達てせもあり、親達でもあり、又皆さんでもあるのだ。』  『ヘエ…………』  『実は大塩中斎の墓が六甲山にあると聞いたので、それを捜しに来たの  だよ。』              そ れ  『あゝさうだつか。併し其墓なら船坂の方やおまへんか、わたえも船場                        こちら  に居つた頃、さう云ふ事を聞いとりましたんで、此寺へ来てから村の人                           い      ひと  に尋るて見ましたら、其墓や船坂と甲山の間やらうと応つてた者がおま  したぜ。』              からと  『イヤ四五年前、わたしや唐櫃の方で見やしたんで…………』                何にも言はずにゐた虎公、毅つと斯う叫んだ。                 そ れ  『わたしも昨年の秋、はつきり其墓を見たんです。』  巳のやんもやんわり応援する。











薬師寺
神戸市西区所在
曹洞宗


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