こ ゝ
『それやあんた方の見違ひでせう。私は先祖代々此村に住んで居ますが、
そんな
其麼ことは聞いたこともありませんがな。』
世話方はキツパリと否定する。
ごんき
『ナンセ此の人(世話方)は役の行者に随いてゐた前鬼後鬼の子孫で、
こ ゝ ひつこ
先祖が大和の後鬼村から此村へ移住しやはつたのやし、今でも山伏で年
びやく
闢年中山へ入つてゐる人だすさかえな。』
住職は世話方の否定に裏書をした。
もと
『それが灯台下暗しと云ふんぢや御座んせんかな。』
たてづ
虎公は目の色変へて猛然と反抗いた。
わしとこ や
『ナーニ西郷戦争頃までは、私家から火を与らぬと、山神の崇りを受け
からと
ると云うて、誰一人唐櫃を越すものがなかつた位、私家と唐櫃は縁が深
や ま
い。それに私は子供の時分から何度唐櫃へ入つたか知れませんから、そ
もの つ
んな墓があれば、目に触かなけりやならんのです。』
ど こ ま で も
世話方は徹頭徹尾反抗する。
とこ
『しかし君!僕宅へ来る寺の世話方に、南海の住吉神社の境内に先祖代々
い つ
住んでゐる男がある。何日だつたか、その男に、住吉の灯籠の数を問ふ
たら「奈良の鹿の数は分つても高野の墓の数と住吉の石灯籠の数は分り
そんな
ませんな」と云ふから、「其麼に沢山な石灯籠は全体誰が献げたのかね」
き
と質くと、「一々名前は彫つてあるやうですが、どんな名前か一つも気
い
がつきません」と答ひよつたからなあ。』
しつこ きた
世話方の執拗い否定に大頓挫を来さんとする、一同の意気を盛り返すべ
く、僕が斯う云ふと、
ゑら どなた
『イヤ私は唐櫃六甲の事なら、豪さうに云ふや御座んせんが、何方にも
つもり
負けは取らん了見です。』
世話方はいよ/\ムキになり出した。
だいえんざん や
『大塩の墓が見つかつたからつて、大塩山中斎寺を建てゝ御祈祷屋を営
そんな
りやしないから、其麼に商売敵の如うに言は無くたつて可いさ。』
おんばう とりあげばゞ
『隠坊をつかまへて 産婆 を頼みやしないからまあ安心し給へ。』
マツサージ
『摩擦の阿爺に脳膸の根本原理を尋ねやしないからね。はゝゝゝ』
ふたり みんな こんな
MYも一同の士気を沮喪させてはと気遣つたのか、這様ことを言つて世
話方を嘲殺せうとする。
こ ゝ
『イヤ有難い!世話方君。若しも中斎先生の墓が発見されたら早速此寺
もろとも
へ御礼に来るよ。兎に角、此の寺の世話方たる君が住職諸共、斯うして
我々を鞭韃して呉れられた深甚なる御好意は感謝するよ。』
みんな
斯う言つて僕が一同を促して立上りかけると、
『先生!御一同の為に御災難除けの御祈祷をしますから…………』
と、住職は云ふ。
どうか かゝ
『そりや甚だ迷惑だよ。何卒我々にドエライ災難が注るやうに祈つて置
いて呉れ玉へ…………何が阿呆らしいことがあるものか。一生懸命に呪
なまぐ
つてゐて呉れ玉へ。何故つて君!腥さ坊主の呪ひは精進堅固の高僧の御
祈祷と同じだからね。』
『はゝゝゝ仕様も無い…………』
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