みんな
『一同は墓を見つからなかつた為に勇気いよ/\凛々たるものがある。』
ふたり あか せきやう
とYMが報告して呉れた時、山の雑木林を紅く染めてゐる美しい夕陽を
な が い
遥望めて、僕は斯う答つた。
『日の暮れかゝる前は、遥かに明るくなるものだねえ。』
ど
心が読めなかつたか何うか、MYは又もや甲斐々々しく先導して進む。
くら おもむ
昼猶闇き深林に差しかゝつた時、僕は徐ろに一同を諭して、もう探墓の第
一予定線を超えたのだ、これから先、いよ/\有望の度を加へて来ると共
に、また危険の度も甚だしくなるから、帰つた方が可いと慫慂した。しか
あちら
し誰一人「それでは帰りましやう」と申出る者が無かつたが、彼森へわた
こちら せだけ
り此峰を越えて更に二十町ばかり、六甲の最高峰の頂点近き、身長以上の
熊笹に包まれた山腹の蜘蛛ケ岩――これは土中から露出せる奇巌に心経が
ほ
鐫りつけてあつて、多聞寺の先住の発起だと謂ふ――に達した時、
いとま
『先生が、あれほど言はれるから、ぢやあお辞しやうぢやないか。』
到頭本音を吐く者があつた。
ひ たて
周囲は不気味なムードに包まれて白刃の如うな風が凍え切つた五体を縦
よこ つんざ
横十文字に劈く如うな心地がする。
『こゝまで来て、見附けずに帰るのは惜しい事ぢやなあ。』
つ
『そんなら、何処までも跟いて御座らつしやれ!』
と云つたら、義理にも勇み立ち得さうな者は、一人も見かけられぬのに
拘らず、未練がましく斯う装ふ者もあつたが、余人は兎も角、先達と頼ん
ぜいいう
だ虎公、巳のやんも加はつた、結局十一人の贅疣団は、僕等三人を残して、
此処から下山することになつた。
斯うなる事は、最初から分り過ぎる程、僕には分つてゐたが、YMには
驚心駭目的な意外であつたらしい。
ど
『君等も一緒に下山したら怎うだね。』
からか
と僕が揶揄ふと、二人は又意外にも、
『先生!そりや本当ですかな。』
むく
と来た。諧謔が真面目を以て酬いられた訳である。その糞真面目に対し
くらゐ
ては、僕と雖も勢ひ半真面目位にはならざるを得ない。
『本当だとも!墓探しは実際僕一人で沢山だ。君等も痩我慢を張らずに、
彼等と一緒に帰つた方が、君等の為には勿論、僕の為にも行いのだ。』
キツパリと言ひ切つたが、僕の心では、半ぱ依然として諧謔であつた
。所が反響はいよ/\僕に不利なるものであつた。
いとま
『ぢやあ済みませんが、これで私共もお暇いたします。まあ随分お気を
つけられて…………』
と、Y君が云ふと、
『お怪我の無いやうに、危い山路を辿る時に、どうぞ稲荷の辻占が悪か
つた事をお忘れにならないやうに…………』
ひとり
と又、M君も言つた。
|