ぎよしう
然し、残月白き朝ぼらけに靄を漕ぐ漁舟の外に、目を遮るものとては、
たま/\飛び交ふ水鳥ばかりであつた小野浜にスクーナー、ケツチ等の横
帆船から、バーク、バーカンチン等の横縦帆船、ブリツク、フルリグドシ
とも
ツプ等の縦帆船の舷々相当り、舳々相次げる今に猶、和船本位の兵庫港、
ゆうべ た ゆる
久しか振りに先頃下神の砌、其港頭の夕に佇つた僕はそゞろ心を揺がせら
よこた に
れた。墨絵の如うに遠く横はる防波堤の灯火や、遠近の舷灯かせ濃霧に浸
じ またゝ ひかり ゆ
染み、曇り勝ちの空に瞬く星の幽光が、亡き母、逝きし子の魂の如うに思
そゝ
はれて、不覚の涙を水と空との間に濺がざるを得なかつた。消え行く船の
ね し
笛の音が泌み/゛\と身に迫るのであつた。
それはさて昨夜見た記念碑、僕等三人の為にも、再会の記念となつた其
こんてう
の碑を今朝新しく見て、明治三十八年英人グルームが、初めて此の地の草
開きをしたことが分つた。
して見ると、日本在来の特殊部落に比して、更に/\後進部落であらね
ばならぬ。彼等の有する八十五町歩に亘るゴルフ場は、彼等の生活の余裕
を示して余りあるが、しかし村としては従来は勿論、将来と雖も、それほ
ど発展するやうには思はれない。
のち
『幾世紀かの後、平家の落人と云ふ五家村のやうなものになつて了はね
ばよいが……………』
ひ と
とM君が、他人の疝気を頭痛に病んだのも可笑しい。
やゝ
ワイ/\連が居なくなつて、モトの水入らずの同行三人、談興動もすれ
ば最高潮まで沸騰するのであつたが、目的を達するまでは、余り与太るの
・・・・
も、山霊に対して憚りありと、今日はひたすらに山路を急いだ甲斐あつて、
昨日の道を逆戻り、山の背を伝うて三千五十尺といふ有馬六甲の頂上に立
よ ほんらん
つた時の心地快さ。西方には播丹の山々、河泉の峰巒が海の東西に薄紫に
ぼかされて、夢のやうに溶けてゐる。寒気に凍てた地層からはぽか/\と
せい/\ いきほひ
湯気が上つて、青く芽ぐんだ草の葉は、生々と天地と戦ふ勢である。嵐に
いき/\
身顫ひしながら、生々と呼吸をしてゐる。
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