『旧幕府 3巻8号』(旧幕府雑誌社) 1899.8 より
御城代の家中のものゝ話に、此度は旦那も莫大の物入にて、価の尊き米を夥しく兵粮に遣し、握りめしを包む竹の皮計も丁度拾金の竹皮を買入れたり、夫にて御察し被下 と云しとて仲間のものか話せし故、如何様にも(御城代にては格別の物入にて有べしとは思ひしが、竹の皮代十両とは如何にも)仰山なる事なりと驚思ひし故、家(宅)へ帰りて家内の者に斯と話せしか、家内か申すは、
扨是に依て思へば、武士の心掛と云ふと(は)惣て斯様なる時の用意にて、其時用立つものは存外なるものにあるものあ(な)り。
平日重宝する蒔絵の重箱 黒塗の弁当箱いくら所持しても、其時一つも用には立ず。随分手軽き柳行李の弁当、是も跡の仕廻取集め面倒なれは、最一つ下なる竹の皮にて用事が達すれば、直に跡は捨てすむといふものが第一の至宝なり。