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ところが偶々飢饉に会したのである。学問をして物の道理を知つて居る
○ ○ ○
だけ、それだけ餓民の惨状を見てそのあはれを感ずることが強かつた、遂
に窃に其の心に相談し決心して、我が蔵米を売りて金銭にかえて之を貧民
に与へて救ひた、而して尚ほ後素は大阪城代土井大炊頭利位及び同町奉行
跡部山城守良弼に対し、究民救助の哀願に及んだ、然るに町奉行は之を顧
つら
みず、城代亦蛙の面に水!、実に知らぬ顔であつた、而も後素は熱心に百
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方しなをかえ、手を替えながら懇請をつゞけて居つた、而して後素は達す
あた
ること能はす、のみならず官は意地悪く出でゝ却つて税金の督促を猛烈に
した、爰に至つては平八郎後素の癇癪玉は忽ち破裂した。
後素は同志を糾合し、非常手段に訴へ悪官暴吏を一掃し、以て本意を貫
かんと欲するに至つた、乃ち『虐吏天誅の檄文』を作つて之を飛ばし同志
いはゆ
の糾合に取りかゝつたが、その身既に饑餓に迫まり居れる究民!、所謂る
究して乱するもの!、彼れ等は思つたである。
ど の みち
『飢えて死ぬるか?、刑に触れて死ぬるか?、甲乙途死なねばならぬ身
ぢやもの!』
とて、忽ち後素の檄に応じて起るもの雲蒸霧集の概があつた。
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