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右の害ひとつもなく、飢民すくなく、天命は不知、一人もころさず、右
の米千石の所には五百石をも不用して、役人もいらず救良法あり、問、小
屋をも不懸、釡桶の類も不用、役人もいらず、飢民を歩行させずして養事
は其町々の者共へわたすかと云、否、夫にては町人難儀すべし、又問に、
盗取るやうなることも出来、町代役人などの私も出来ぬべし、然ば如何に
して救ふべきや、云、されば其良法あり、されども志なき人にかたれば、
一応の咄になりて、必其事行はれざるものなり、外に様々の邪魔も出来、
やかましく成て却て益なし、故に其人ならでは語るまじき事なり、されど
も其法をしるし置侍るまゝ、夫を秘して自分の了簡にてなし給ん御心の上
にて、御考のために一覧あるべし
飢饉にてかたはし飢斃るゝ時には、先第一京都ならば、上下東西の乞風
小屋、竝穢多村島原へふれをなして、乞食村にては乞食頭の者、其村中の
飢に及者を一人も外へ出すべからず、其中にて一日に一合か、一合半の粥
を煮て養ふべし、一人にても其村より飢人を出し、町中にて死せしめば、
その頭は追放たるべし、夫乞食頭の者其次なる者も、常におびたゞしく金
銀を貯め居る事なり、頭より其次なる者へわり付、相応米一石か或は五斗
づゝ出させて、毎日其女房などに煮させて、及死類の者をやしなはしむべ
し、穢多村同前たるべし、島原の者にもくるはあげ屋などゝ云て、大分富
たる者多し、其富たるもの共、其内の餓死に及ぶべき者に粥を煮てくはせ、
一人も外べ出すべからず、若外にて島原の者とて餓死にするものあらば、
尤追放たるべし、品により死罪なるべし、乞食も常々町中へ行て、定たる
方ありて、もらひありくものは其通り、さなき者は門に番をすへて、一人
も出すべからず、是にて大分の餓死の人、途中往来の害なきものなり、鼠
盗の類もやむものなり、凡乞食の手に入たる金銀など、二度外へ出ること
なければ、斯様の事にて同類を養はするも、其者共の為にも冥加の事なり、
日頃町中にてやしなはるゝ報恩には、かやうの時盗賊の乱行をとゞめ、見
苦敷者を道にたふれしめぬとも、亦至極の理也
町中にても室町三條などの繁昌地にては、如何様の飢饉にても餓死に及
者はなきなり、然ば辺土第一なり、扨町にても小屋/\の其日廻の者多き
辺など、又其次なり
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かたはし
片端か
つぎつぎと
乞風小屋
乞食小屋か
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