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三倉ともに、穀にて貯ふべし、金にては、まさかの時の、間に合はず、
常平のみならず、其余も皆倉といへり、倉とは米穀の事なり、金銭を入る
処にあらず、金銭山のごとしといへども、飢を救ふ事を得ず、且又籾にて
いつまでもたくはへおくを、国史に不動穀といへり、是皇国の古法也、し
かし籾にてたくはへば、年久しきうちに減少して、つひには余程の損耗と
なるゆゑ、金にてたくはへ置、入用の時米を買ふにしかずといふ説あれど、
まさかの時、米を買んとすれど、何国も払底の節ゆゑ、買得ること出来て
も、たつとくして容易ならず、其上たつときは、いとはづとも、国々津留
になれば、多分の金を出すとも、とんと、手に入らぬこともあるべければ、
穀にて古くはへざれば、安心はなるべからず、さてまた籾の減るといふ事
あれど、浅草大倉に、承応年中の籾あることをきけり、凡籾米をかこへば、
初は少々減るとも、後には其儘なるよし、尤米の性にもよることなれば、
減らぬ性の米をえらみ、五六年目にふるひたてゝ、俵につめかふれば、其
後は減ぜずといへり、(再按、籾をば倉の中へちらし置、俵につめざるを
古法とす。減らぬ為にはよけれど、俵籾をもて算用する為には、本文の通
りなるが、便利なるべし)。五六年の間に、一割ほど減るよしなれど、古
米は飯に焚て、ふえれば、さし引て、かくべつの損耗とはなるべからず、
たとひ、損耗ありとも、籾をたくはへざれば、衆人を救ふ事を得ず、いは
んや、格別損耗なきをや、とかく国をたもつものは、人命を貴び、人心を
得るを先とす、民ありて国あり、民の為に損なる事をしても、終には得と
なるべし。
社倉・義倉に貯へ置べきもの、米にかぎらず、麦にてもよし、麦は米よ
り価賤しきのみならず、一俵の食ほとんど、二俵の用をもなすべければ、
利沢多かるべし、其他粟・黍・稗・ ・菰米など、土地に宜しき物を作り
て、貯とせば、ます/\価少くして、利沢多かるべし。いかにといへば、
米麦とちがひて、食うて味あしく、鬻ぎて価よからざるゆゑ、奸吏も盗事
なく、国用不足の時に至りて、利をいふ役人も、倉を開て払ふことなかる
べし。されば稗の類は、味なくして、直も賤きものゆゑ、百姓も作る事を
好まず、ひと通りのいひ付にては、作らざるべし、水府にては、御年貢の
内に、米の代りに少しづゝ稗を納めしめ玉ふゆゑ、百姓もやむ事を得ず、
多く作ると聞けり、善法といふべし、民は遠き慮なきものゆゑ、救荒の為
などいふては、心付ましければ、かゝる法を用ひ玉ひしなるべし、定て黄
門義公などの御考るべし。
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津留
領主が自領内の港・
関所での物資の移出
入を禁止または制限
(うるち)
鬻(ひさ)ぎて
売って
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