Я[大塩の乱 資料館]Я
2017.5.1

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「大塩の乱関係論文集」目次


『飢饉資料』(抄) その55

司法省刑事局編・刊 1932

◇禁転載◇

第三章 飢饉の公的対策
 第五 飢饉と教喩
   一 富人のいましめ
     (救荒便覧、日本経済大典第十五巻五八九頁以下)

管理人註
  

 飢歳は天地の変にして、いつあるべき事かまへ、角よりしるべきにはあ らざれども、古きふみにも六歳に一饑、十二歳に一荒などともありて、我 日の本のいにしへより、きゝんの事は史乗にものせ、雑説にも見えて、三 四五十年の間には必ずある事のよし云へり、畢竟天地の変は、天の人をい ましめたまへるにて、太平の御代、豊年打つゞき、人々御恩徳のあつきに あまへて、おごりにふける時は、天よりきゝんを降し、人をいましめたま ふ、是天の人をあはれみ給ふにて、永くめてたき御代のしるしをあらはし 給ふなり、国無道にして、五穀豊稔するは、天の見すて給ふなりといへり、 されば人々きゝんは天の御めぐみと心得、手当によりわざはひをのがるべ き事をしり、其身をつゝしみ、御制度を固く守り、かゆをすゝり、酒もり せず、そまつなる衣服を著し、住居の好み事をせず、人と争ひせず、仁心 を本とし、自分の力に及ぶだけは人の飢寒をすくひ、生死をともにする心 得第一なるべし、人の死ぬるをもすくはず、その身許りを思ふは、身勝手 にして天の御心にたがひ、神慮にも背きて、まのあたり重き御罰を蒙るべ し、よく/\此意をわきまへ、をごりの心をやめ、其身をつゝしみなば、 天のなすわざしひも猶のがるべきことなん  ○金銀米穀をもてるものはその身のはたらきにて、身上よくせしなれば、 あながちに身代をふるひて、人をすくひ候へといふにはあらねど、きゝん の節は憂患をともにする事、古へのおきてなれば、己が家内計生残らんと のみ思はず、成丈は人に施すべし、善を積の家には、余慶ありといへば、 損とはならすして子孫の栄となるべし  ○自分の身ばかりをはかりて、人にほどこさゞるは遏糴とて、唐にても きつい法度なり、背く時はつみにをこなはるゝなり、自分富貴にて、さし 当りこまる事なけれども、きゝんの程何年つゞく程もはかりがたしなどゝ 思ひて、身をかばひ、しはくして施さず、かく人々心得たがふ時は、米穀 金銀一所にあつまりて、融通なし、御世話ありとも、争があまねくうゑを すくふべき町々国々の豪商ども、かみより一々身上分限御根究なき内、自 分々々はやくよりわきまへ、有余あらば施すべし、きゝんのすくひにて、 身上をはたきたりといはれなば、生前の面目こゝろよき事ならずや、又す くひを受くるものも受けざるものも、その志に感じ、口々にほめ立てなば、 天の視る事など、人の見るに従ひたまはざらん、仁君などかろしめさゞら ん、循吏なんど察せざらん、いたずらに金銀米穀をいだきて、かねの番人 無慈悲の人と呼るゝ事、口おしき事ならずや、凶饑甚しければ、いのち夕 にせまり、火にやかれ、水に溺るゝことゝなれば、意を決してすみやかに 救ふべし  ○隣国の人も人なり、自国の人も人なり、中あしき人も人なり、我子か はゆければ、人の子かはゆきも同じ、天の御眼より見れば、皆人御子なり、 きゝん難義の時は、天道に御奉公と心得、上下とも艱苦をともにし、人我 のへだてなく、近親より施を初むべし  ○身上よく施するとも、たかぶるべからず、就中浪人読書の師などは無 禄にて、不農不商不工、生産にのみかゝりがたきものなれば、貧き人もあ るべければ、富人はすくふべし、仁義をする人を軽んずる事なかれ、其他 すべて武芸する人、及び算術手跡の師など無禄なる人に至るまで、夫々厚 くすくひて、その難をのがすべし






史乗
(しじょう)
歴史書、史録














































遏糴
(あつてき)
遏は押しとど
める



しはくして
吝くして





根究
徹底的に究明
する








循吏
規則に忠実で
仕事熱心な役人
 


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