○米穀高ければ、人の気立つものなり、他人のものを奪ひても、わが命
たすからんと思ふゆゑ、不慮のことをも起すことあり、是第一につゝしむ
へき事なり、上には父母と仰ぎ奉る君のましませば、いかで見ごろしにな
したまふべき、又国々在々所々、僻遠の地に至るまで、国主領主ありて治
めらるれば、夫々御手当ありて、御すくひ有事相違なければ、人々心をお
ちつけ、気遣なき事をわきまへ、うすきかゆをすゝり、麦引わり、大豆・
小豆・穀類かず/\、海草にもこんぶ・あらめ・ひじきなど多く、其外う
ゑをしのぐもの数々あれば、力を尽し、いかにもしてうゑをしのぐべし、
かりそめにも人をいつはり、又は争ひがましき心をおこすべからず、わざ
はひは下よりおこすならひなれば、此所をよく厚く心掛べし
○其身まづしきは骨折ても不仕合あり、又は心掛あしく、平生おごりて
衣食住の為についやし、きゝんになり、たくはへなきは自分のゆだんなり、
つらつら遠謀深慮、人の富貴をうらやみ、そねむ心あるべからず、平生中
あしくとも、めぐむものからば、かたじけなくうけて、その恩を忘れず、
是迄自分おこたり、不始末なるを後悔し、志を改め、善人となるべし、又
自分兼ての心掛なく餓死するとも、みづからなせるわざはひなれば、たれ
をうらむべき、然るに心得ちがひのものは、死なんよりは、腕ずくにても
人のものをうばひ、活命んと思ひ立、己のみか人までもさそひ立、大勢徒
党し、らんぼうに及ぶ抔は悪少年の所業、重き御法度をやぶり、盗賊の働
に当り、御仕置となるは目前なり、たとへのがれて長命すること万一あり
とも、天にたがひ、君に背きて、莫大のとがをおかしなば、うしろぐらき
事いふ計なく、高き天も、ひきくあつき地も、うすく覚えて広き世界も、
せまかるべし、是人と生れし甲斐なきにあらずや、鳥さへも雨ふらぬ前に
巣を固くし、人の侮をうけず、人として父母妻子の手当なく餓死せしめば、
鳥にも及ばぬ事あさましく、耻かしきことならずや
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