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ひゃくしやう
○農 年荒の儀、人力の及びがたき所なれども、手当によりてうゑをし
のぐべき事なり、旱年雨年にて、穀物あしく見え候へば、早く手当すべし、
ひでりに宜しきもの有、夫々気をきかせ作るべし、大根の葉、芋の葉まで
もたくはふべし、米穀払底の節になり候へば、かゆをすゝり、さはぎ立申
さぬ様心掛べし、身上よき者は、所の御役人へ達施し差出し度旨願ひ出べ
し、又相応の物持どもへは申合いたし、うすきかてかゆにて、永くしのぐ
の致し方等、深切に心掛くべし、物持どもは、平生人にそねまれ、少しに
ても無慈悲なる心掛ある時は、差て買込米かねもうけ不致とも、常々目を
つけられ、少しの事もあしく申立、打こはし、悪名を立られ、子孫までの
はぢとなり、家さかへ申さぬなり、こはし候ものも咎に行はれ、己も衰微
を招くなり、飢歳相互に恤み候事は、人の道なる事は申すに及ばず、積善
の家には余慶あるにて、其身も命ながく、禍ひなく、子孫も繁昌するなり、
己れ蔵数多く、米穀金銀沢山に握りつめ候とも、象内にて残らず用ふべき
にもあらず、一升の飯、一升の酒、一度に飲くひすべきにもあらず大家と
ても座する処は三尺に過ず、衣類も一枚一度にきるべきにもあらず、欲も
ほどをしるべし、人の命にかゝり候節、すくひ候はゞ、其所にて永く尊敬
いたし申伝へ、人々忘れ申まじく候、子孫の繁昌を求るは是にまさること
なく、天へのつとめ、上への御奉公にて候
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恤(あわれ)み
積善
(せきぜん)
祖先の善行に
よって子孫が
得る幸運
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