Я[大塩の乱 資料館]Я
2003.8.6

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大塩の乱関係論文集目次


『青 天 霹 靂 史』

その33

島本仲道編

今橋巌 1887刊 より

◇禁転載◇

翌月二十六日、人あり窃に城代土井大炊頭の邸に詣て、平八郎父子の、靱通油掛町なる美吉屋五郎兵衛の家に潜匿する事を密告す、

蓋し五郎兵衛は染物形置を以て職とする者なり、婢僕七八人あり、其妻は甞て平八郎の家に婢たりしを以 て、平八郎の遁走するや父子潜に此に至り、其舎匿を請ひたるなり、五郎兵衛は乃ち之を諾し、其居家の後に当り土蔵あり、其間に建る所の茶室に容れて之を匿せり、而して婢僕をして此に入らしめず、食事より漉掃の事に至るまで皆自ら給仕せしを以て、初め未だ之を知る者あらざりき、

然るに一婢あり、其食料の平日よりも多きを怪み、窃に其状を伺ふに、茶室中、別に人あるを覚る故を以て大に驚き、其夜俄に家に走帰て、父に告るに実を以てしたりしかば、其父も亦大に驚き、乃ち之を土地の庄屋に密告し、庄屋は亦之を城代に密告するに及びたるなり、

因て大炊頭は、堀伊賀守に命じて、其組与力内山彦次郎及び自家の老職鷲見十郎左衛門*1に二十余人の衆を率て之を逮捕せしむ、二人、命を領して二十七日の黎明を以て油掛町に至り、美吉屋の家を囲み、一人進で其戸を打ち之を呼ぶに、人あり、之に応じて微に其戸を開き、窃に一見せしが、忽にして乃ち驚くが如く、俄然戸を閉ち、復た開かず、頻りに之を呼べども、応ぜざるに依り、十郎左衛門、彦次郎等は止む事を得ず、其衆を麾して戸を毀ち、其家に入らしめ、進で将に茶室に闖入せんとすれば、茶室も亦閉て入る事を得ず、故に復たび之を毀たしめんと令するとき、忽ち轟然として砲声あり、尋で火茶室より発す、

葢し平八郎必死を分として、予め硝薬を室中に蓄ヘて、不虞に備ヘ間を得て、以て死に就くの防具としたるなり、

十郎左衛門等は事の不意に出るに驚き、逡巡して進まざるの間に、格之助は乃ち自刃して死す、平八郎も亦、将に死せんとするとき、業(スデ)に已に吏卒の火を蹴て其室に闖入するに遇ふを以て、平八郎は急に其咽を刺し、身を火中に跳らしながら、尚ほ其前進する者を望で刀を擲て死せり、

時に平八郎年四十四、格之助は二十五と云ふ、


管理人註
*1 見十郎左衛門。


中瀬寿一ほか「『鷹見泉石日記』にみる大塩事件像


『青天霹靂史』目次/その32/その34

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