Я[大塩の乱 資料館]Я
2004.2.10/2.11訂正

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大塩の乱関係論文集目次


『青 天 霹 靂 史』

その59

島本仲道編

今橋巌 1887刊 より

◇禁転載◇

凡そ天下の事は、原因ありて、然後結果を生ぜずんばあらず、未だ曾て其原因なくして結果ある者を聞かざるなり、

乃ち因果の説は特り大雄氏の一家言にあらずして、天下の真理たりと謂ふべし、今之を平八郎の事に考るも亦然らざらんや、

平八郎が暴挙を企るは、蓋し偶然の事に非れば、之を読む者は亦、此れが結果を致す所以の原因ありて、存する者を求めざる可らず、

曰く、之を救助を拒むに出るとせんか、

曰く、否な、是れ副因と称すべきのみ、原因と為すには、足らざるなり、乃ち跡部山城守の能を妬む者、是其成因なり

初め平八郎は、高井山城守の知遇を得たるを以て、有為の才を尽して包蔵する所なく、明断果決能く吏務を処せるを以て、官民之に信服し、既に其職を辞するの後と雖とも、声望隠然として、公私の間に震へり、因て山城守は、常に之を忌み、密に謀て平八郎に服従する所の諸士を貶して、先つ其党援を除き、尋で事に中てゝ平八郎の声望を墜さん事を企てたり、

平八郎も亦之を聞て憮しとせず、之に加るに、良知の学を講じて、正義高潔の心は、日に愈以て増長する所に史胥の行は、滔々として汚穢に陥りて、民俗を害するの深きを見て、憤恚の志抑ふべからず、

其熱情は、恰も火坑の如く、烈々として消し得ず、将に事に触て発裂せんとするの勢あり、

是時に当てや、山城守平八郎との相容れざるは、水火よりも甚しきの狂相ありき、


是以て其一旦にして、衝着する時は、彼の如き変動を生ずるも固と怪むに足らざる所なり、

是れ読者の其原因として考察を下さゞる所の要点と謂ふべし、

然らずんば豈に平八郎と雖とも、救助を拒むの一因を以て俄に彼の如き暴挙を企る事あるべけんや、従来の憤悶鬱結する者此機に触れて、発裂するに至りたる事知るべきなり、

乃ち平八郎が平生に述作する所の詩を以ても、其悶鬱する所の情、得て見るべし、


『青天霹靂史』目次/その58/その60

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