Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.3.30

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「大塩の乱関係論文集」目次


『民本主義の犠牲者大塩平八郎』

その106

相馬由也

開発社 1919

◇禁転載◇

十四、一敗地に塗る (4) 管理人註
   

      あと  山城守は其後へ繰出し、内骨屋筋から内平野町を西へ進んだが、其処 で大塩党に巡り合ひ、大塩党から、山城守の纏を目掛けて猛烈に発砲す る。そこで此方からも一度に火蓋を切つたが、只一人、人夫様の者の死 体を残して、大塩党は引き上げ、平野橋を渡り、東横堀川に沿うて南下 し、右に淡路町に折れたが、此時は早や同勢が減じて漸く百人計りにな                        けむり        あんこく つて居た。鉉之助は同じ方向に少し進んで見たが、烟の為に寸前闇黒な ので已むなく引返し、左に折れて、松屋町筋を南下し、山城守の本隊を 駈抜け、それより右転して、平野橋と隣合ふ思案橋を渡り、行き当つて                        おく 南に少し進み、右に又瓦屋町に折れた、為助は少し後れて、同じ跡を追    あひだ ふ。此間山城守は一同より遥に後れて歩くのみかは、他の者に先に行け                       うしろ と命じ、或る町を通つた時には、如何にも敵でも背後に廻りはせぬかと 気遣はしげに、自分の通つた後の木戸を締めさせたといふ話だ、大塩党 は淡路町、鉉之助、為助等は瓦屋町と両々相平行して暫く進んだ訳だが、 大塩党の方が少し早かりけん、辻々を互に見合つて進んだけれども、八          せきえい 百屋町筋へ出る迄は隻影だも眼に入らず、漸く堺筋に至つて、双方から 認め合ひ、烈しく鉄砲を打交はしたが、市街地の事とて、共に両側の民                          家に飛び込み、隠れて玉込しては、物蔭を便りに進み出で狙撃する。そ     はか/゛\                       おほづつ れ故勝敗捗捗しからず、暫く時を経る間に、鉉之助は、大塩党の大砲方 が大砲の車台に付いて、少しづゝ西へ退くのを認めて、之をと狙つた、 其者は筒台を楯に取つて、顔を下げて居たが、腰の方が台の上から見え                            うち て居たから、それを目標として火蓋を切ると、誤らず、唯一打で斃れて 仕舞つた、是は彦根藩の浪人梅田源左衛門といふ者で、黒羽二重紅裏の 小袖、八丈の下着、黒羅紗の火事羽織を着用に及んだ、身の廻り立派な                         から         は 男で、大小も相応な拵へ、着物の裾をおちぼからげに絡げ、股引も穿か        ばき ず、素足に草鞋穿であつた相な。山城守は此梅田の首を刎ねて槍先に貫     あ る き、持歩行かせた、扨て四辻へ出て見たが、最早や大塩党は潰散して、               したい 影だに止めず、名も知れぬ者の屍体が一つ斃れて居る外には、百目玉筒                            三挺車台附、巣に四寸許の木砲二挺、長持二棹、具足櫃二荷、火薬入革 葛籠十余個、小筒三挺、鎗三四本、太鼓一個、旗二本といふ様なものが、 算を乱して落ち散つて居る、其中には平八郎の持鎗もあつたので、山城                         に  おく 守は初めて愁眉を開いた様子であつた。安田図書は遁げ後れて、近傍の 民家で捕縛になつた。伊賀守は暫く休息して又出掛け、内平野町の衝突                         はさみうち 後、山城守に出会つた。そこで二手に分れて、賊徒を挟撃にしやうとの 約束で、山城守の馬廻に居た脇勝太郎外二人が、伊賀守の先鋒と為り、                            あと 本町橋附近迄進んで行つたが、肝腎な伊賀守は、半町位づゝ後に引下つ て居り、其隊の鉄砲同心も、初め二十人程居つたのが、瓦町堺筋辺では、                          いくた 僅に十三四人になつて仕舞ひ、それが皆後れ勝なので、幾び催促しても、            いかり 言甲斐が無い、勝太郎は怒を発し、顧みて高声に罵つたけれども、誰一                           うち 人之に答ふるものもないといふ程の意気地無し、兎角する中、北の辻で 鉄砲の音がするので、急いで駈け附ける途中に、鎗二本と粗末な大小一             ぶんどり 腰とが落ちて居るのを見て分捕した、そこで両町奉行が又落合ひ、一手 になつて淡路町を西へと進んだが、最早や何者の影も見えぬ。引返して 本町橋東詰から、両奉行は袂を分ち、山城守は其儘御城入をした。




幸田成友
『大塩平八郎』
その140


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