Я[大塩の乱 資料館]Я
2012.12.4

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「大塩の乱関係論文集」目次


『民本主義の犠牲者大塩平八郎』

その41

相馬由也

開発社 1919

◇禁転載◇

六、吏風の頽廃 (1) 管理人註
   

 平八郎の胸天に徂徠した時勢の妖雲は、最も多く彼の同僚荻野勘左衛           しょかん 門の忰四郎助に与へた書柬中に現れ、同時に彼の一生を貫く心体並に徳            あきらか 川家に対する心掛の程も明に知れる便宜があると思ふから茲には其全文                 ことば を引く、是は平八郎が前に申諭した語の中に自己の心境を画いて「功を 忘れ候得共、事は忘れ不申」といつた事に就いて、四郎助より質問の 手紙が来たから、それに答へたものであらう。其心で見ると文意は極め て明瞭である。即ち左の通り。  功を忘れ候得共、事は忘れ不申、巨細貴君御心得迄猶可貴意  旨承知仕候。  右は僕御奉公中兼々御咄申通、功を忘れ、事を不忘と申儀者、才徳  相備、又は正直成る人者格別、通例才智有之人、其主君へ仕へ候て  も、先自分之利慾をば第一に存候もの多く、万一天下又者其主君之為                         くらい  に相成候事心付、骨折相働候共、大抵其底意には此位の官職、此位の                あらづもり  知行を可貰と、心中に自分と荒積の約束致置、其上には人に不 にくま        そしら  悪様、不誹様、功あれば自分にも掛、罪咎あれは上たる人へもぬ             あやまち              ならひ  すくり、又は同役一同之過に可成と内心相巧勤候、上下之習故、真                 まれ  実に忠義を可尽と決心之者は甚稀成る通情に付、其働成就之後、其  功に依て褒美官職知行抔貰候と、自分一家之栄を相喜、相慶し、実心  其主家天下之事を不思勝成る者に御座候、是義何れも只今に始め候        いにしへ  事には無く、古よりり流弊に候、僕其義を嘆息いたし候付、先年より  追々其私情を去候工夫に力を尽し、下賤ながら心付候事者、身并家を                あやうきこと           にくまれ  も不顧、寸心一杯に尽し、誠に危事共相犯し候、爾来或人に被悪、   いまれ        ねたまれ  そしられ           さからひ    かんさう  被忌、或人に被妬、被誹、或頭の耳に逆候事共諌諍いたし候義、  中には貴兄も御存有之候通にて、僕引構候御用向において、功あれ                あやまちとが  ば頭、支配之上たる人へ帰し、過咎も有之候節は、自分一人引受可               あらまし  申覚悟、其事跡心実とも兼々粗御聞見有之候次第にて、先宿願の通、  三年已前御暇乞退身仕候、山城殿参府に付思付候事には無之、邪宗                  はなし  門吟味之節、京都同列之者ども兼而談候事有之、義は難取失、士  之一言、泰山磐石よりも重く、前以御暇内願罷在候義も及御聞候通  にて、首尾よく退身仕候とも、二百年余先祖より僕之父母に至迄、難               しきたり        つつが  有も御代々様御恩沢を以相続仕来、僕之身に至迄無恙命を続、太平  を楽来、冥加之至、如何体相働候とも、年来の御恩沢万分之一も難     たとひ  奉報、縦天下之大功を相立候とも、相忘れ可申筋、殊に与力勤役中                    いとま  之義は誠に当り前之事に付、思切退身御暇願候故、功を忘れ候と申義                            つかまつり  にて、しかし御暇受候共、素々神君様御馬先において功名仕、御手づ  から御弓拝領仕候大塩波右衛門血当之僕に付、下賤ながら君臣之名分        ことに  は一生難離、殊今以忰御抱入席ながら相勤、御切米頂戴、右を以身                           まこと  命相養居候付、人々へ教授いたし候にも外なく、君へは真に忠を尽し、            おもてばかり  親へも真に孝を尽し、表計に善をいたさず、内心人之不知処におい  ても、利心悪念不挟候様にと申勧候付、事は相忘不申候一端に御座  候、且無之事には候得共、天下御大切之是と申事之節者、隠者なが  らも急度砕身粉骨可致、夫故事は不忘と申義にて、平生世間の事者、  万端可預様無之事。






幸田成友
『大塩平八郎』
 その181












































諌諍
争ってまでも
強く目上をい
さめること


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