Я[大塩の乱 資料館]Я
2012.12.23

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「大塩の乱関係論文集」目次


『民本主義の犠牲者大塩平八郎』

その56

相馬由也

開発社 1919

◇禁転載◇

八 所謂三大功績 (6) 管理人註
   

 次は奸吏糾弾事件で、文政十二年三月に起つた出来事、即ち其梗概は、                            ジ ニ  セシム 平八郎の辞職の詩の序に在る「十二年已丑春三月、「公又命余糾察猾             シ  テ シ ヲ スル ヲ ヲ  シテ    スル ブ 吏姦卒、与豪強潜通隠交、以蠹政害人者、而其所注連要路之 ノ  ニ      ズ ルニ ラ ヲ  シ リ   レテ ツ ル シテ カル ヲ   シ シカク 人臣僕、歴世官司非之、蓋有怖 且憚而 遁之歟、若爾   シ  フ  ナ  ノ    ジ    ニ  ニ キ    ヲ   ニ  ニ 不世思民之甚者也、余感公之忠憤、終置禍福利害於度外、潜 リ  ヲ  シ   ルノ ハ ヲ   ヲ  テ シ  ヲ  ス  ヲ     シ 図密策、施疾雷不耳之遺意、以摘其伏、発其姦、魁首自刄、    ノ キ ニ   ニ   スル     ツテ  ヲ リ       レ 余党各就刑于藁街死者若干人、挙其贓三千金、皆是民之膏     シテ ヲ テ メ テ  スル ヲ  ヲ      スルノ 血也、散之以肇建振恤煢独之法、姦猾蠧蝕 庶民之害、於是乎   ク ク  シテ ノ モ タ  シ  スルニ 又漸除、而無告人亦庶幾蘇息矣」といふ文と、山陽が平八郎の尾張に              シ  ニ シ  ニ  ビ  ニ  キ  ヲ 適くを送るの序の中に在る「蠹于上于下、結猾賈、延閭閻、   ヲ シ  ト  チ ル  ノ    ハ ガ ト    スルニ  ニ ル ヲ  カモ 黠民為爪牙、乃至藩服要人或為之友党声気交通、尹心知之、而   ノ  リ         リト           ル  ノ ミ 主客勢懸、苟傍観、吏雖良焉、衆寡不敵、浮沈取容而已」と                たち いふ文とに因つて窺はれる通り、性の悪い役人が市中の横着な商人や          ひそか 権力の有る顔利きと潜に気脈を通じ合ひ、碌でも無い奴輩を手先に使 つて政道の妨をし、良民を傷めるものがあるが、根張が広く強くて誰 しも手を着け得ぬ、彼等の紐引き合つて居る其紐の端々を手繰ると、 随分要職に在る者の臣僕に迄も及んで居る。代々の町奉行の眼力がそ れに通らぬ訳ではないが、市政に就いての先例古格で、何事も彼等の        たしな        ほうし 方から町奉行を窘めるといふ方で、封豕長蛇の勢を以て権高になつて                         ざ こ 振舞ふから、主客の勢 隔たり、而かも網を入れゝば雑魚では済まず、 どんしう 呑舟の大魚が居つて網を受け入れぬのみか、怒つて尾鰭を振ひ、狂濤   を掀げれば我居る船底が危険で、板子一枚の下が地獄の心地がする。 といふ次第から、皆情を知りつゝ大目に見遁す、波と浮沈して好い加 減に調子を合はせるのだ、それを高井山城守殿が糾弾せんと欲して、 平八郎に旨を含ます、平八郎は其忠憤に感じて一身の禍福利害を度外       に置き、事済らば国を捕はんも済らずんば家を破らんといふ此立場に、                     決心して捨身になり、家に正妻なく、一妾ゆらといふ者の居つたのを        わづらひ 暇をやつて後に累の無い様にした。ゆらも平八郎の後顧の念を絶つ為 に、緑の黒髪をプツツリ切り落したといふので、右の山陽の文には   ニ リ    シテ ヲ ム カラ  スル 「家有一妾、出之令累」と記してある。仲々容易ならぬ覚悟、    はかりごと めぐ それから籌を運し策を決し、親信を指顧し、発摘意外に出でて疾雷耳を                   なら          こりつ 掩ふ能はざらしむる早技、封豕長蛇は首を駢べて戮に就き、内外股栗と                ふる いつて歯の根も合はず、ガタ/\顫ひたといふ。


幸田成友
『大塩平八郎』
その25

幸田成友
『大塩平八郎』
その172












幸田成友
『大塩平八郎』
その173





















封豕長蛇
貪欲で残忍な
人のたとえ


呑舟
舟をまるのみ
にするほどの
大きな魚。転
じて、大人物、
大物








「ゆう」が正しい











股栗
恐ろしさに足が
ふるえること


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