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次は奸吏糾弾事件で、文政十二年三月に起つた出来事、即ち其梗概は、
ジ ニ セシム
平八郎の辞職の詩の序に在る「十二年已丑春三月、「公又命 余糾 察猾
シ テ シ ヲ スル ヲ ヲ シテ スル ブ
吏姦卒、与 豪強 潜通隠交、以蠹 政害 人者 、而其所 注連 及 要路之
ノ ニ ズ ルニ ラ ヲ シ リ レテ ツ ル シテ カル ヲ シ シカク
人臣僕 、歴世官司非 不 知 之、蓋有 所 怖 且憚 而 遁 之歟、若 爾
シ フ ナ ノ ジ ニ ニ キ ヲ ニ ニ
不 愛 世思 民之甚者 也、余感 公之忠憤 、終置 禍福利害於度外 、潜
リ ヲ シ ルノ ハ ヲ ヲ テ シ ヲ ス ヲ シ
図 密策 、施 疾雷不 掩 耳之遺意 、以摘 其伏 、発 其姦 、魁首自刄、
ノ キ ニ ニ スル ツテ ヲ リ レ
余党各就 刑于藁街 、 死者若干人、挙 其贓 有 三千金 、皆是民之膏
シテ ヲ テ メ テ スル ヲ ヲ スルノ
血也、散 之以肇 建振 恤煢独 之法 、姦猾蠧 蝕 庶民 之害、於 是乎
ク ク シテ ノ モ タ シ スルニ
又漸除、而無告人亦庶 幾蘇息 矣」といふ文と、山陽が平八郎の尾張に
ゆ シ ニ シ ニ ビ ニ キ ヲ
適くを送るの序の中に在る「蠹 于上 浚 于下 、結 猾賈 、延 閭閻 、
ヲ シ ト チ ル ノ ハ ガ ト スルニ ニ ル ヲ カモ
黠民為 爪牙 、乃至 藩服要人或為 之友党 声気交通 、尹心知 之、而
ノ リ リト ル ノ ミ
主客勢懸、苟 傍観、吏雖 有 良焉、衆寡不 敵、浮沈取 容而已」と
たち
いふ文とに因つて窺はれる通り、性の悪い役人が市中の横着な商人や
ひそか
権力の有る顔利きと潜に気脈を通じ合ひ、碌でも無い奴輩を手先に使
つて政道の妨をし、良民を傷めるものがあるが、根張が広く強くて誰
しも手を着け得ぬ、彼等の紐引き合つて居る其紐の端々を手繰ると、
随分要職に在る者の臣僕に迄も及んで居る。代々の町奉行の眼力がそ
れに通らぬ訳ではないが、市政に就いての先例古格で、何事も彼等の
たしな ほうし
方から町奉行を窘めるといふ方で、封豕長蛇の勢を以て権高になつて
ざ こ
振舞ふから、主客の勢 隔たり、而かも網を入れゝば雑魚では済まず、
どんしう
呑舟の大魚が居つて網を受け入れぬのみか、怒つて尾鰭を振ひ、狂濤
あ
を掀げれば我居る船底が危険で、板子一枚の下が地獄の心地がする。
といふ次第から、皆情を知りつゝ大目に見遁す、波と浮沈して好い加
減に調子を合はせるのだ、それを高井山城守殿が糾弾せんと欲して、
平八郎に旨を含ます、平八郎は其忠憤に感じて一身の禍福利害を度外
な
に置き、事済らば国を捕はんも済らずんば家を破らんといふ此立場に、
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決心して捨身になり、家に正妻なく、一妾ゆらといふ者の居つたのを
わづらひ
暇をやつて後に累の無い様にした。ゆらも平八郎の後顧の念を絶つ為
に、緑の黒髪をプツツリ切り落したといふので、右の山陽の文には
ニ リ シテ ヲ ム カラ スル
「家有 一妾、出 之令 無 所 累」と記してある。仲々容易ならぬ覚悟、
はかりごと めぐ
それから籌を運し策を決し、親信を指顧し、発摘意外に出でて疾雷耳を
お なら こりつ
掩ふ能はざらしむる早技、封豕長蛇は首を駢べて戮に就き、内外股栗と
ふる
いつて歯の根も合はず、ガタ/\顫ひたといふ。
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幸田成友
『大塩平八郎』
その25
幸田成友
『大塩平八郎』
その172
幸田成友
『大塩平八郎』
その173
封豕長蛇
貪欲で残忍な
人のたとえ
呑舟
舟をまるのみ
にするほどの
大きな魚。転
じて、大人物、
大物
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「ゆう」が正しい
股栗
恐ろしさに足が
ふるえること
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