Я[大塩の乱 資料館]Я
2012.9.18

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩中斎空虚の哲理』

その26

高田集蔵

立正屋書房 1925

◇禁転載◇

三、宗教的修練
 (其二)(5)
管理人註
   

 耶蘇が三十九巻の旧約全書から天父の観念を抽出し来つで、自家が嬰 児旡妄の心に之を身読した如く、中斎先生亦四書五経に載する道の太だ 散漫なるものゝ中から唯一の孝字を抽出して之を鼓揚せられたのであり ます。  「夫れ道は四書五経に載するもの、太だ散漫にして要なきに似たり、  而も至要なる者の在るあり。至要なる者とは何ぞ、喜怒哀楽のみ。喜  怒哀楽とは亦惟仁義礼智のみ。仁義礼智とは亦惟仁義のみ。仁義とは  亦惟孝弟のみ。孝弟とは亦惟孝のみ。而して孝は外よリ鑠するものに  非ず、不学不慮の知能にして、孩提の童も其の親を愛するを知らざる  なきの良なり。其の良とは他に非ず、天の太虚霊明なるのみ。善く其  領地を致さば、則ち情性皆其正を得。舜是れなり」  これによつて中斎先生が良智と大虚と、而して孝とを、いかに解して ゐられたかゞ分明であります。即ち中斎学に従へば、太虚は人心本然の 真体であり、それから生れ来つた人間の天良が良知であり、その良知が 即孝心なのであります。この孝心は天真爛漫、骨肉の父母に対して発動 する不学不慮の知能、匹夫匹婦にも通存する人間性の義ででありますが、 同時に霊性の父母たる太虚に帰せんと欲して瞬時も已まざる良知そのも のでなければなりません。  「善く其の良知を致さゞれば、則ち情性皆其の正を得ず、深山の野人  是れなり。故に野人、富貴利慾に遇ひ、憂虞禍害に値はゞ、則ち其の  父母を棄てゝ趨避す。鹿豕と異なることなし。学士大夫と雖も、色を  好めば則ち小艾を慕ひ、妻子あれば則ち妻子を慕ふ。仕ふれば則ち君  を慕ひ、君に得ざれば則ち熱中す。是に於て其孩提父母を愛するを知  るの良心将た何れに在りや。」  耶蘇が獣と共に荒野に在つて断食すること四十日、人生の三大誘惑に 打ち勝つた秘訣は、彼が天父に対する純一にして不断の孝心によるので あります。羊がたゞ己が牧者の声を聞いて之に従ふが如く、嬰児はたゞ その母の乳を吸ふて生育致します。是れ嬰児の有する良知であります。  説きて茲に至り、能く学びて嬰児謙虚の心に帰し得ましたならば、一 切名利の誘惑、物質の欺瞞から超然逸脱して、良知の働くがまゝに仁義 礼智の回徳を全うすることが出来る消息が略分明にされたことゝ信じま す。




旡妄
(むもう)
いつわりな
きこと





『洗心洞箚記』
その11





(れき)す
熱でとける

孩提
(がいてい)
おさなご


 


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