今中斎は其五綱領の第四に一死生を置けるは、動かすべから
ざる順序なり。既に積極的方法に依て良知を致し、消極的方
法に依て、気質を変化し、帰太虚の功を成就したれば、我己
に太虚に合体せば、太虚元と生もなく死もなし、故に吾亦死
ハ テ ニ ヨリ ル ヲ シテ
生一なり。彼曰く、英傑当 大事 。固忘 禍福生死 。而事適々
レハ チ ハ フ ニ リテハ ニ チ
成。則亦或惑 禍福生死 矣。至 学問精熟之君子 則一也」と。
而して学問精熟の四字は軽々看過すへからざるものあり。中
斎が死生一貫の観念は、学理を尽して了得したるものなれば、
久きに亘りて変はることなし、彼は朱子の語をを引きて曰く、
ク レ ノ ユル チ レ キ ニ ノ
朱子曰只是一気陽消処便是陰。不 是陽退了。又別有 箇陰生 。
ノ ハ リ ル シテ ヲ
朱子此陰陽消息之説。従 程張 来。而天地一気而已矣。号 太
ト シテ ノ テ ス チ レ レハ ヲ チ ハ
虚 而駕 之以運行賦与焉。即是二而一、知 之則生死特其聚散
進退耳」と。又中斎は楊亀山の語を挙げて曰く、天下を通し
て一気のみ、合しては生れ、尽きては死す、凡そ心知血気あ
るの類は、物として然らざるはなし。合の来にあらざること、
尽の往にあらざることを知らば、則ち其生や浮漓なり、其死
や氷釈なり、昼夜の常の如し、悦戚するに足るものなしと。
ハ ホ ノ ハ ホ ノ
又曰く大程子曰、語黙猶 昼夜 。昼夜猶 生死 。生死猶 古今
シ ヲ シ ヲ シテ
と。中斎此語を賛して曰く、「此皆程子尽 心尽 性、而所 以
スル ヲ テ ヘラク ノ デ ハ ニ チ ニ ケル ハ ス
理 会生死 処也。吾嘗謂。未 出息在 内。即生也。既吹息出
ニ チ テ ニ レハ ヲ チ ノコトカ レ ン ノ リハ ト ケ
乎外 。即死也。就 身視 之則生死。何雑 知之有。此悟 本承
シ ヲ リ タル ヲ
領程子之教誨 来以得 之者也」と。
|