Я[大塩の乱 資料館]Я
2014.5.26

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その39

丹 潔

(××叢書 第1編)文潮社 1922

◇禁転載◇

 第二節 横暴なる資本家

管理人註
   

 当時大坂の資本家と云ふのは、鴻池屋、米屋、加島屋等を首領として、 辰巳屋、平野屋、天王寺屋、銭屋、近江屋、炭屋、千草屋の一党であつた。 その他にこれらの分家、別家等が多くあつた。彼等の中には十人両替なる ものがあつて、三郷全体の両替屋を取締る者もあるし、また御用融通方と なつて幕府の金を出入する者もあつた。これらの職にゐる者は公義から名 字帯刀御免になつた上、諸役免除の特典をも受けた。また彼等の中には諸 藩の蔵元になつて、米穀その他の貨物を取扱ふ者もあつた。また、大名に 金を貸すことを専業としてゐる者もあつた。各藩の国元並に江戸屋敷に送 る金や、その他の仕事を取扱つてゐた。斯様にして彼等資本家は天下の金 を握つてゐるのであつた。  彼等は商人とは云へ大名のやうな生活をしてゐた。民衆が飢ゑて街上に 倒れてゐても資本家はおかまひなしだ。また貧乏人が隊を組んで彼等の門 前に押寄せて『どうか御飯を一杯与へて下さい。』と叫んでも、『お前に やるものはない』と、云ふのなれば、兎もあれ、水や煮湯をぶつかけて追 ひ払ふのであつた。中には打れる者もあつた。死ぬ者もあつた。彼等は民 衆を犬か猫のやうに見てゐた。彼等に対して極端なる行動をとる者は、町 奉行の刑罰を受けた。民衆は資本家にかうやつて圧迫されてゐた。それに 反して彼等は驕奢を恣にした。揚屋または茶屋に遊女と戯れてゐた。彼等 はそればかりではない。肉慾を恣にした。また素人の娘を無理やりに茶屋 などに連れ込んでは強姦した。若し意に叛くと自分の家に出入する武士の 威力で抑圧した。娘は泣き泣き服従するのであつた。即ち当時の資本家は 白昼処女を強姦したのだ。【1行ほど欠字】 民衆の憤怒は熱湯のやうに 沸き上つた。  実際、資本家の淫蕩費の一部分で多くの貧乏人は生きることが出来た。 民衆に愛のない彼等は酒色に耽けるばかりであつた。淫蕩に耽ける資本家 があるのに対して、貧乏人は昨日はあすこに五人倒れてゐたかと思ふと、 今日はこゝに十人倒れてゐたと云ふように飢ゑのために倒れる者が激増し て来た。それでも彼等は民衆を振り向かなかつた。彼等は横暴にも遊女を 侍らせて、放歌乱舞の生活を続けてゐた。  殊に憎むべきは大資本家鴻池屋である。彼の主人善右衛門は学者等を邸 宅に呼び寄せて、寝ながら講釈を聞くと云ふ有様であつた。当時第一流の 文学者として名勢高きかの篠崎小竹の論語の講義を、鴻池屋善右衛門が三 つ蒲団に身体を横へて聞いたと云ふ話が伝つてゐる。彼等は金の力で種々 の栄華を貪つた。それらの横暴なる資本家の行為が、平八郎の胸を掻きむ しつた。感激に充ち易い。また反抗的の彼は、とう/\決心の幕を切り落 した。




幸田成友
『大塩平八郎』
その102




公義
ママ
 


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