Я[大塩の乱 資料館]Я
2014.2.20

玄関へ

「大塩の乱関係論文集」目次


「大塩平八郎」
その33

田中貢太郎(1880-1941)

『大塩平八郎と佐倉宗五郎』
(英傑伝叢書10)子供の日本社  1916 所収

◇禁転載◇

十三 悲壮な最後 (4) 管理人註
  

           げ ち   もと                とりて  奉行山城守の激しい下知の下に、三月二十七日の七つ時、多数の捕手が ひそかに見吉屋の四方を取り卷いた。そして、惨酷にも五郎兵衛の妻を脅 しつけて、大塩父子の隠れ場所へ一同を案内させた。その物音におどろい た格之助が、ふと窓の隙間からこの様子を見て、今はこれまでと、すぐ観 念した。 『父上、捕手。』  格之助は声をはづませて云つた。 『何、もう解つたのか。』         い か  平八郎の声は如何にも落着いてゐた。 『はい、そして、五郎兵衛の家内が縄を打たれて泣き崩れて居ります。』 『さうか、可哀さうに。』 『きつと五郎兵衛も責められたことでせう。』 『気の毒なことをした。』 『しかし、何事も因縁でございます。』 あきら 『諦めやう、格之助、覚悟はいいか。』 『父上。』                          はづ  二人は互ひに抱き合つた。その時、土蔵の戸前の錠の外れる音がした。 『さあ、時が来たぞ、格之助。』 『参りませう。』 『よし。』      やきだま  平八郎は焼弾を手許へ引寄せると点火した。瞬間二人は刀を抜いて切腹 した。その時、階下にどかどかと人のなだれ込む音が聞えた。 『大塩親子、御用、御用。』  その途端、轟然たる大音響と共に爆弾が破烈した。ばらばらと壁の落ち          る音、濛濛と立ち罩めた硝烟。忽ち壁の下の羽目板に火がついて、めらめ らと燃えあがつた。 『火事。』                           またた  捕手はすぐ消防に従事したが、火の手は殊に早かつた。瞬く間に土蔵か ら母家全部が火となつた。     けたたま  半鐘が消魂しく鳴つた。  奉行跡部山城守が急を聞いて馬で駈けつけた時には、もう既に建物全部 が焼け落ちてしまつた後であつた。  早速平八郎父子の死骸を探すと、切腹した半焼の哀れな姿が灰の中から 現はれた。これが一代を風靡した快傑大塩平八郎中斎とその養子の悲壮な 最後であつた。



石崎東国
『大塩平八郎伝』
その122

幸田成友
『大塩平八郎』
その159
 


「大塩平八郎」目次/その32

「大塩の乱関係論文集」目次

玄関へ