御庭番の
将軍密告







左京申渡
本文


生駒役取
放し







超過の儀
多し





強いて重
役を罪に
陥る







瀬兵衛等
の重科





宇野甚助
処罰




岩田杉原
処罰







其他の処
分

抑も将軍家斉をして、此の如く仙石騒動に付き、其の深甚の注意を
惹起せしめたる所以は、庭番と称する、将軍直属の秘密探偵ありて、
一切の事情を将軍に報告したるが為めであつた。されば将軍は当時
の執政者よりも、其の委曲に通じ、為めに彼等を驚かしたりと云ふ。
而して事件は、天保六年十二月九日を以て、愈よ落著し。仙石左京
以下、何れもそれ＼゛／処罰せられた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　仙右左京
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　未四十九
　　此者儀遂吟味候処、主人先代美濃守病気差重、跡相続之嫡子無
　　　　　　　　　　　　　　わずか
　　之、火急に出府之節、其砌纔十歳之忰小太郎を、愛子之由にて
　　召連、既に右故隠居播磨守其外一家中在町迄も、疑惑受候段、
　　主家へ対、不顧憚筋に有之、年寄生駒主計勝手掛り手余候由に
　　て、度々申聞候を、同人一人にて差支候はゞ、右懸り召免候儀
　　相願候者格別、増人候ては、区々に可相成抔申答、其儘承置な
　　がら差支場に臨み、以後取締之由にて、年寄役取放しの上減知
　　申付有之、以後此のもの共四人にて勝手方取扱候段、隠居播磨
　　守差図に候共、幼年の主人、家政向専取扱候身分、右次第不都
　　合之儀にて、巧之存念に相聞、其上百姓共小鳥作物を荒候趣を
　　以、捉飼相願候に付、飼置候由は、難立申訳とて、勝手向省略
　　中、宅に鷹差置、野合に於て捉飼致し、又は忰縁女引移之次第
　　等超過之儀共、其外品々如何之取計有之候故、右主計外三人よ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　のべ
　　り隠居播磨守へ上書致し尋受候節、更に無跡形趣に相陳、都而
　　前書宇野甚助へ相談の上、年寄共へ申談、不束の上書致し候旨、
　　播磨守へ申聞、滅知蟄居等為申付右体不届有之候故、元同家来
　　河野瀬兵衛儀、主人同姓へ、此者等取計品々申立候を、讒訴之
　　趣に申成、御料所地内迄足軽差遣し召捕、右に引合候旨を以、
　　主計其外の者共咎之儀は、一旦事済候を、病気にて精神及虚耗
　　　　　　　　　　　　　　　　　　あまつさへ
　　候播磨守陰聞為致、再吟味および。剰瀬兵衛申立候儀は、於奉
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かど
　　行所吟味之上、此事の申訳無之、恐入候旨申立候廉多端に候処、
　　讒訴之趣に吟味為詰、其以前播磨守へ心添申遣候を不行届の由
　　にて、詑の書付、同家来杉原官兵衛へ申談為差出。右体事実反
　　覆之儀を、却而瀬兵衛は死刑難遁由抔物語、外年寄共より右之
　　趣を以、了簡為申立、瀬兵衛仕置相決、然のみならず、主計外
　　三人者、同姓どもえ瀬兵衛書付差出候に申合候儀無之旨申立候
　　を、倶に相巧み、讒訴致候体、書面取綴、主人を欺、重き御役
　　人の内慮迄相伺、瀬兵衛は死罪、主計外二人は切腹より一等軽
　　き心得にて、剃髪之上、穢多町続明屋へ囲ひを補理入置候始末、
　　主家へ対深望無之由は申立候とも、其身不忠之露顕をいとひ、
　　主人為筋等申立候ものを、重科に陥入候に無紛、不届至極に付、
　　獄門に行ふもの也。

以上の申渡文は、如何にも文字晦渋にして、意義分明を欠けども、
迎へて読めば、自から通ずる所がある。其他仙石家用人宇野甚助は、

　　内実左京申談、取計始末、不忠之左京へ相組し、主人為筋を申
　　立候ものを、重科に陥し入るに無紛、不届付死罪申付。

又た年寄岩田静馬、杉原官兵衛は、

　　静馬儀、其身並左京悪事之次第露顕をいとひ、同意いたし。
　　（瀬兵衛、及主計外三処分の件）官兵衛は、左京権威に恐れ随
　　　　　　　　　　　つくろひ
　　従いたすとも、右取拵之書面を以、主人をも欺重き御役人の内
　　意相伺、死罪其外重科申付候始末、静馬者別而之儀、官兵衛一
　　同不届に付、静馬は死罪申付候。官兵衛者重追放申付。

其他年寄青木弾右衛門、元年寄大森豊は、前者は重追放、後者は中
追放に処せられ、左京の子年寄見習小太郎は遠島、旗奉行、郡奉行、
勘定奉行岩田丹太夫、物頭町奉行恵坂又左衛門、郡奉行徳永半左衛
門、勘定奉行山本耕兵衛は、前の二人は中追放、後の二人は軽追放
に処せられた。