徳富「近世日本国民史」9

Я［大塩の乱資料館］Я
2008.1.10

「大塩の乱関係論文集」目次

『近世日本国民史　文政天保時代』

その９

徳富猪一郎(1863-1957)著　民友社　１９３５

◇禁転載◇

　　　　九　旧新貨幣の引換

新鋳一朱判通用令引替旅費給与令旅費歩合幕府の利益甚大更に一朱判通用厲行令引替期限の延長更に引替強行令水野忠成の寵栄文政二歩判金荻原改悪鋳新文字銀

新鋳の一朱判は、愈よ文政七年七月二日より通用を始めた。　　一　此度世上通用之ため、吹立被仰付候朱朱判之儀、七月二　　日より可致通用候。尤先連て相触候通、小判、弐歩判、壱歩　　判、弐朱判等、取交無差別、取引為致候條、通用差滞申間敷　　候事。　　一　弐朱判通用之ため、江戸、京、大坂、其外在々にて、是　　迄吹直金銀引替御用勤居候者共え申付、引替方為取計候間、　　壱歩判望之者は、右引替御用勤居候者共之内え申込、古金又　　は吹直金、弐歩判、弐朱判等を以、勝手次第引替、遠国先々　　迄も、通用方差支無之様、取計可申事。　　一　壱朱判両替に付、切賃之儀、弐歩判、壱歩判、弐朱判、　　同様相心得、取遣可致事。尚ほ右壱朱金を、普遍的に流通せしむ可く、同年閏八月には、更らに左の令を発した。　　　　　　大目付え　　一　古金銀引替之儀、国々之内には、最寄引替所迄、　　みちのり　　　　　　　　わざわざ　　道法相隔り候場所も有之、又は遠国より態々金銀座え持越、　　引替候者も有之候処、右体遠路之処、一度に金銀高多く差出　　候ては、道中持送之入用も相懸候に付、おのづから、金銀高　　見計、幾度にも差出候様可相成候。古金銀通用之儀、先達て　　相触候通、来酉（文政八年）二月迄にて、停止之事に候得ば、　　向後古金銀差出候ものの住所より、金銀座並其最寄引替所え　　道法五里余相隔、金銀高一度に金五百両、銀は拾貫目以上差　　出候者えは、里数一里往返分金百両に付、銀五分づゝ、銀壱　　貫目に付、銀三分宛之割合を以、里数金銀高に応じ、諸入用　　被下候筈に候間、御料は御代官、私領は領主、地頭にて、右　　諸入用相願候者取調、江戸金座銀座え申立候様可致候。若当　　人又は其身寄を以て、直に金銀座え申立度旨申候はゞ、其通　　為致候ても不苦候間、いづれにも、厚く世話いたし、古金銀　　所持之ものは、早々為引替候様可致候。此の如く新貨と旧貨との交換に便宜を与へ、是非共新貸の流通を全国に、殊に都会のみならず、遠隔の地に及ぼさんとしたるを見れば、如何に此の引換が、幕府に取りて、利益あるかゞ推察するに足る。而して文政八年三月には、　　　　　　大目付え　　一　壱朱判之儀、御年貢並諸向上納金は勿論、諸靴鮮沸、諸　　家為替納、且遠国為替等之儀も壱朱判受取可申候。尤皆壱朱　　判にても勝手次第に候間、弥世上通用差滞申間敷候。更らに同年七月には、　　一　古金銀通用之儀、当八月より弥停止たるべく候間、無油　　断引替に差出可申、当二月相触候処、今以引替残有之趣に付、　　猶又戌年（文政九年）二月迄、是迄之通、古金銀通用致し、　　三月より停止たるべく候。尤遠国等之引替方、御料は御代官、　　私領は領主、地頭にて世話いたし、引替させ候様にと、先達　　て追々相触候通、此上急度世話いたし、来戌年（文政九年）　　二月迄に不残引替させ候様可致候。更らに文政九年十二月に至り、左の如く令を発した。　　一　古金銀通用之儀、当二月相触候通、来亥二月より、弥通　　用停止候間、停止以後、堅く通用いたす間敷候事。　　一　古弐朱判之儀も、近々通用停止可被仰出候條、古弐朱判　　所持之者は、此節精出し、引替所え差出可申候事。　　一　古金銀通用停止以後も、遠国其外無拠引替残、古金銀も　　可有之哉に付、引替所之儀、古弐朱判通用中は、先是迄之通　　被差置候間、古金銀所持之ものは、早々差出引替可申候。若　　停止以後、古金銀通用致候歟欺、又は古金銀貯置、不引替も　　の於有之は、吟味之上、急度可申付候。上記の如く新旧貨幣引換には、繰り返し命令を下して、其の徹底をつとめた。此れと同時に、御勝手掛水野出羽守忠成は、此の新貨鋳造一件に　　　　　　　　　　　かさて、実に身に余る寵栄を累ね来つた。即ち文政八年二月九日には、将軍家斉は、水野忠成の大川筋の別邸に臨んだ。それは近例無き為め、水戸家の小梅邸に臨み、便道御通り抜けの名儀を以てした。　　　　　　　　　あぶみ同年七月九日には、鐙及び葵紋の鞍覆を賜はつた。此れは当時に於ては、希有の面目であつた。文政十年三月廿五日には、金銀改鋳の功にて時服を賜はつた。而して此れより先き文政四年十一月十一日には、勝手向出精致し候との儀にて、一万石の加増を受け、又た同十二年十二月十六日、同様の儀にて、更らに一万石の加増を受けた。而して是れ皆な財政の、遣り繰り上の功労を賞したものであるが、其の手品の種は、金銀貨幣改鋳、若しくは新鋳であつたことは、固より云ふ迄もない事だ。　　　　　　―――――――――――――――――― 　　　　　金銀通用之事文政元年戊寅六月、二歩判金を鋳る、二枚を以て金二両に換ふ。世に是を真字二歩判といふ。天保六年乙未十月通用止む。凡十八年。文政二年乙卯九月、小判金一歩判金を改む。是を文政金といふ。天保十三年壬申八月通用止む。凡二十四年。　按に凡改貨の拳は、金銀共、同時に改めらゝ事先格なり。是金　銀の品位軽重、適当を欲すれば也。寛永の度荻原近江守、屡々

　私に銀位を改め其当を失ひ、天下悪幣に苦しめり。
是一つなり
乾

　金は一時止むべからざるの権法に出で、其説前に論ずるごとく

　なれ共、其当を失へる一なり。
是二つなり
明和の五匁銀
是三つなり

　同二朱銀
是四つなり
文政の二歩判金
是五つなり
金銀を閣て、ひとり
　小判一歩判のみに改められし事、古規に違へりといへども、共　品位軽重、適当の法を失へる事既に久しければ、今更いふべき　にあらず。但し其事を奉れる輩、注意の基く所を知らず、政本　を乱し、後世を謬つ事、実に歎ずべき事なり。文政三年庚辰七月、通用銀を改む。是を艸文字銀、又新文字銀といふ。従来の文字銀を真文字銀、又古文字銀といふ。天保十三年壬寅八月通用止む。凡二十三年。文政七年甲申三月、二朱銀を改鋳す。従来の二朱銀に対して、新二朱銀といふ。天保十三年壬寅八月通用止む。凡十九年。文政七年甲申七月、一朱金を鋳る。天保二年庚子十月に至り通用止む。凡十七年。文政十一年戊子十一月、二歩判金を改鋳す。是を草字二歩判といふ。従来の二歩列を真字二歩判といふ。天保十三年壬寅八月通用止む。凡十五年。文政十二年己丑七月、一朱銀を鋳る。十六枚を以て金一丙に換ふ。天保十三年壬寅八月通用止む。凡十四年。〔貨幣秘録〕　　　　　　――――――――――――――――――

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徳富猪一郎(1863-1957)著 民友社 １９３５

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その９

徳富猪一郎(1863-1957)著　民友社　１９３５