| 遠州稗原村村上庄司より来状の写 その４ |
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吉 見 九 郎 右 衛 門 の 訴 状 |
乍恐公儀御一大事の儀奉急訴候。東組同心吉見九郎右衛門 近来天変地変打続き、民心不安候に付、私晩学の師と相頼候東組与力大塩格之助父隠退にて、儒業罷在候大塩平八郎儀、忰格之助丁打稽古其外余事に托し、旧冬より火薬拵へ致し居候処、実は憂恐難堪候に付、孔孟之徳もなく湯武の勢位無之候得共、民を訪ひ候大義と唱へ可申と、恐多も不顧公儀奉驚かし、王道に帰し候様致度き旨、門人之内同組与力瀬田済之助・小泉淵次郎、同心之内渡辺良左衛門・河合郷左衛門・近藤梶五郎・平山助二郎・庄司儀左衛門・私竝に河州守口村質商売白井幸左衛門・同州般若村庄屋橋本忠兵衛等へ追々密談致し、同志に申勧め候に付、私は勿論誰とても仰天恐怖不致者無之趣、 | |
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平 八 郎 の 素 行 |
元来平八郎儀、気分高く剛陽勝れ候性質に付、平生門人教方厳敷、長幼之無差別折々大杖にて叩候得共、意念の不正を懲候に付、過を改め善に遷候様相成り、師弟之交誠実を尽し候に付、皆恩に感じ恭敬厚く致し候故、申聞了簡之義に違候儀有之候ても、一言之論談致し候ものも無之、素より右密談請け候者共、学術未熟無術之者共にて、私儀は尚更弁候道も無之、答方当惑、誠大膽なる存付と怖敷く存候処、 漢高租・明大租之功業を解得為致候條申聞、実以て不同意は勿論、右様之儀仮令学力有之候共不容易儀、隠退の与力抔にて出来可申様無之儀に付、其場を飾り尤の様に言葉を合せ、其余の者共も多分同様に相聞候処、 全は人を様(ため)し候為の虚言と、初は一統存じ罷在候処、火薬分外に拵へ、弥々密談に力を入候に付、猶々恐怖の念弥増し、答へ方畏縮致し候者は、身分を賎しめ、悪言大杖を以て【心殺】たせ、外人を懲し強制致に付、弥々以一言半句も不為申様相成り、皆々致歎息候得共致方無之、無拠同意致し労心候儀に御座候。 尤民を訪ひ候儀は鉅橋・鹿台の粟を民に与へられ候遺道に候迚、大坂市中の豪家町人共、利倍を以貯置候金銀・銭竝大名方蔵屋敷有米を与へ候間、何時にても市中に出火承候はゞ、貧民駈付可申。右金・米配当致し可遣旨の檄文を作り、 播・河・泉・播へ相廻し候様、何共嘆かはしき次第にて、私身分は賤しき御奉 公致し候得共、先租より恐多も君上の御恩沢を以て、父母・妻子を育み、何 無不足相勤候段、誠以冥加至極、難有仕合に奉存候に付、右体の企実心決して同意不仕、無勿体儀に付何卒相避け申度存じ、不快差支に托し、成丈けは平八郎方へ不罷越様致し、漸迎年三日過寒邪の上、宿疾発動相労候後、出勤も難仕併し却て幸に相成り、旁々以病気養生引込御届申上候に付、不携様相成候得共、何卒右企為相止度く、良左衛門竝其余の者へ諌方の儀度々及内談候処、何れも尤同意に候得共、中々以一朝一夕の事にては難参、良左衛門・郷左衛門等より諷諌致し候得共、止る気色無之、却て憤り候故、口を閉候次第、 此上は誠実を盡し、自分と心付き相止候様致し度き旨、良左衛門申聞け、其余の者共は諷諌迚も致す者無之、既に郷左衛門儀は避候心得に候哉、不計家出致し候仕儀に有之、全内変に付き急度心付天を恐れ相止り、又申と様子相探り 候へ共、頓著不致趣に付、猶又良左衛門へ面談之上、 | |
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九郎 衛 門 病 に 托 し て 加 担 を 辞 す |
私儀兼て多病の義は、平八郎能存知罷在候義にも有之、其上当時病症労疫の上、疝痛・痔痛一時に相成り、心気労れ弥増候に付、中々密談難相成候間、自殺を以て相断候外無之旨、追て及談候処、種々申宥め、「さ候はゞ外申談取計ひ方可有之哉、折角相察居候段申間相帰候上、右の趣平八郎及承候はゞ心付相止候儀も至り可申哉」と存居候処、一両日相立ち良左衛門罷越、平八郎へは「私にも病気之儀故、右一絛過急の発立は難出来申聞候処、尤の義、左候はば緩々保養第一の旨」申居候間、其心得を以事発覚の節は、早々立退き可申旨良左衛門申聞候へ共、実は如何の示合に候哉、同人儀は難遁儀も有之哉、同意決心の旨申聞け、其余は無是非相随ひ候事哉。尚私病気寛養の義、見舞旁々格之助竝儀左衛門等を以申越し、全く私差迫り違変も有之候てはと不審にて、一儀露顕を危踏候故の義と相察し、将又平八郎儀聊無私心、人を勧め又檄文を廻し、且所持の書籍を以施行の儀も民心寄伏の為と竊相察し申候。 以前に違背有る間即忰へ可娶積の養娘を自分妾に致し男子出産仕候に付、殊の外相歓び、此上にて弥々一儀決心の旨私へも相咄し、屹と有間敷き抔申聞候。俗人にも相劣り候不行跡の儀、且後来望有之儀顕然にて、最早叛謀の企を以て人を勧め候ては承知可仕者無之儀は勿論の儀に付、無欲天道を以て事を謀候様名分を立て、愚味の者をたぶらかし、同志に引入れ、檄文中殊に明白に認載せ有之、実に天下の御為を存候はゞ、如何様とも自分の及び候丈け、御忠節の奉尽方も可有御座哉、誠に以て言語道断奉恐入候次第にて、私儀病気を以て相避候得共、斯く御大事の儀不奉言上は、御高恩何共可奉報候。 且不届の罪難逃候儀に付、此段奉内訴候。右に付き第一奉申上候は、御城并両御役所其外組屋敷等迄火攻の謀に付、右に乗じ市中人家へ火を掛け可申。さ候はゞ乱時にて数万の人命に拘り候儀と、兼て御武備も御座候得共、火急に事起り候義も難計、時を考候間、中々御油断難相成御歴々様御危難の時節に御座候間、乍恐密密急速御手当の上御取鎮の御深慮奉頼上候。右之趣急に奉言上度く、昼夜心を苦め罷在候得共、病悩難堪一向執筆不相叶、山城守様へ可申上にも取次可申者も無御座、色々配痛無拠隔所見計ひ、托訴を以て遲々に及び候得共、奉言上候間、其段御赦免可被成下候。尤平八郎儀右体火術用意不一通候に付、御深慮被思召候様奉仰候。共余相随ひ候前書名前の者、是非御召捕にも相成候節、私儀も同様御取計可被下候。 無左候ては私より密訴の儀相知れ候ては全く卑怯、一旦の義理を忘却仕候様相当り候も口惜く、即いづれの道死は決差仕罷在候へ共、私相果候はゞ御不審の内火急に事発覚可仕も難計、左候時は大乱に相成、急訴も空敷き次第に付、 御召捕迄時に臨み自滅可仕も難計御座候間、右寸忠を以て御赦免可被成 下候。病体も六かしく候に付、万一御憐愍を以て御留置又は御預に相成候 共、乍ち落命に至り可申儀必定の儀に付、此段御憐愍の上御評究被下候様、重々奉願上候。 将又至つて若年の忰英太郎と申す者、学文為修行先達てより平八郎方に寄宿為致置候処、全く人質の積りにて候哉差帰し不申、仕儀に寄忰存亡に拘り候得共、御一事には難換万々一幸に落命も不仕候はゞ、其余は血族の者共一同御仁憐の程奉願上候。何卒右密訴の儀は暫く御内含、外より逹御聞候様被成下、後日の御裁判重々 奉願上候。已上 但し西御組与力内山彦三郎儀は、兼ねて平八郎心に合不申由に候処、彦三郎此度遠方御用に参り候哉に、沙汰も承り申間、遁れ不申候はヾ、手初めに取懸り候儀も難計奉存候間、出立候差延べ御堅慮被思召候様奉仰候。 天保八酉年二月 九郎右衛門
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