当所に於は廿四日より天満天神の砂持始まる。晴天三七日の願の由、北の新地よりは石の鳥居を寄附し、青楼残らず遊女を出して之を引かしめ、老少男女の差別なく、種々の形をなして砂を持運び囃し立てゝ浮れ歩行く有様、何れも夢中の如し。軈て節季に至らば其夢忽ち覚めて、臍を噛んで後梅する輩も定めて多くありぬる事なるべし。先達てより大に浮かれ立ちて、我一に見物に行きし。彼の猫間川は素より辺土にて行詰りし処なれば、三月下旬よりしては、一向に行きぬる人とてもなくて、森の宮の開帳も参詣する者一人もなく、至つて淋しき事なりと云ふ事なり。
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