岩波書店 1940 より
附録抄 |
丁亥之秋、余西備に適(ゆ)き、茶山翁遺物の竹杖を得て帰る、
尼崎に航する比(こ)ろ、之を失ふ、
大塩君士起を煩はし、(あまね)く索む○○、
数旬にして獲、専价(せんかい)来り致す、
士起清廉にして、嘱託を受けず、茶翁と余との故にあらずんば、何ぞ肯(あへ)て此の如くならん、
此れ謝せざるべからずなり。
茶翁詩を吟ずる八十年、二たび函関に入り五たび鴨川、携へ来る九節彎蜷(わんけん)の竹、風月を嘲り尽して飛んで天に上る、
手に雲漢を抉(えぐ)つて其の杖を遺(おと)す、
直下七万八千里我が前に堕つ、
黒光奕奕(えき\/)手沢在り、
急に之を拾ひ取る誰か先きに居る、持ち去つて鯨を掣す芸海の辺、
雨翻り浪湧き忽ち見えず、
万鷁(げき)聚散尋ぬるに縁(よし)無し、
君が姦をし伏を発する神の如きの手を借つて、六丁を駆役して急なること弦の如し、
碧落を排し黄泉を掀(あ)げ、追逐獲来つて喜び顛せんと欲す、
汝龍を学んで躍つて淵に入りしにあらず、
汝を見るに未だ鱗の連延を生ぜず、
応に是れ竊に吾が(くわい\/)を罵り、前者を追うて去つて斗
(とてん)に奔りしなるべし、
君が力に頼るにあらざるよりは、逋逃(ほたう)終に旋(かへ)らず、
汝勉めて我に従うて復た然(し)かする勿れ、
吾れ将に共に翁の遺(のこ)す所の残雲剰煙を捜らんとす、
一語凡に落つれば汝が鞭を受けん。
【原文(漢文)略】