● ●ちやう べんばく
一六八 後儒、一気の説を以て張子気質の性を弁駁す。
●けいじご
然れども張子の言を三復するに、「形而後素質の性
●
あり。善く之に反れば、則ち天地の性存す、故に気
かくこ
質の性は、君子性とせざる者あり」と。此の説確乎
か
としてそれ易ふべからざるものなり。何となれば則
●せんてん こう
ち一気の説は、人・先天に在つては則ち然り、後天
に至つては則ち明らかに善悪あり。而て之を本然の
性と謂ふは可ならんや。故に之を気質と謂はざるを
し
得ず。之を素質と謂はざるを得ざれば、則ち強ひて
は
名づくるに此れを以てするにあらざれば、則ち将た
何とか謂はん。是れ乃ち張子の本意にあらず。故に
又た曰く、「善く之に反れば、則ち天地の性存す云
がい
云」と。是に於て概して素質を以て性と為せるにあ
た
らざるを見るべし。只だ人の為めに慮るや深し。而
も其の之を弁駁するは何ぞや。吾れは則ち気質の性
か たから
の説を以て、天下欠ぐべからざるの宝と為すなり。
後儒以 一気之説 、弁 駁張子気質之性 、然三
復張子之言 、「形而後有 気質之性 、善反 之、
則天地之性存焉、故気質之性、君子有 弗 性者
焉、」此説確乎其不 可 易者也、何則一気之説、
人在 先天 則然、至 後天 則明有 善悪 焉、而
謂 之本然之性 可乎、故不 得 不 謂 之気質 、
不 得 不 謂 之気質 、則強名焉非 以 此、即将
謂 何、是乃非 張子之本意 、故又曰、「善反
之、則天地之性存焉云云」、於 是可 見 非 概
以 気質 為 性矣、只為 人慮也深矣、而其弁 駁
之 何也、吾則以 気質之性之説 、為 天下不 可
欠之宝 也、
|
●後儒云々。天
地一元気なれば、
別に気質の気な
しといふ。
●張子。張横渠
のこと、前出。
正蒙を著はし、
太虚を主張し、
又気質の性を説
く。
●形而後云々。
形而上に対し人
として形はれた
後を形而後とい
ふ、易の繋辞篇
に本づく。
●之に反。性の
本に反る。
●先天。先天は
天より賦与せら
れしもの、後天
は生後に受けし
もの。
|