一四 問ふ、書を読みて然る後良知を致すやと。曰
● すなは
く、否。書を読むは便ち是れ良知を致すなり。
問、読 書然後致 良知 乎、曰、否、読 書便是
致 良知 也、
● いたん
一五 二氏異端と雖も、其の教を設くる意は、則ち
固より亦た善を長じ悪を消するのみ。故に其の説
まゝ
の道に合するもの間これあり。然るに猶異端を以
けうあい
て其の道に合ふものを取らざれば、則ち狭隘にあ
●すうとうくわく
らざらんや。善い哉、鄒東廓先生の説、曰く。
● げん
「吾が儒の教は、三間の正堂の若し。聖聖相伝へ、
さいそう おこ ●そ
洒掃以て世業と為す。聖人作らず、而て堂に祖無
さ くわく
し。老氏其の左角に入り、天を指し地に画して曰
しやく
く、此れ吾れの堂なりと。釈氏其の右角に入り、
天を指し地に画して曰く、此れ吾れの堂なりと。
げんぜん
是に於て堂中の人、眩然として迷乱し、而て其の
真を知らず。後の儒者、聖人の道を恢復せんと欲
さいそう
せば、則ち亦た入つて中堂に居り、洒掃して以て
さ
其の旧に復せば可なり。乃ち其の左を割いて以て
老に帰し、其の右を割いて以て釈に帰し、聖人の
堂遂に決裂して完からず。葢し二氏の言、其の道
● もと
に合するものは、固より吾が儒の道なり。経に払
そむ へん
りて道に畔くに至るは、則ち居る所の偏にして、
ふ
以て大中を履み、而て至正に由る無きを以てのみ。
しか おほむ
而も ね指言して以て老釈の道と為し、其の道に
●きんき をせん
合ふものと雖も、一切禁忌し、相汚染するがごと
く然り。是れ吾が地を割き、吾が兵糧を棄て、盗
か ● こう
に借して之が攻を助くるなり」と。鳴呼、先生の
こうせいくわつだい しんしや
説、公正濶大、陽明先生に親炙して、心太虚に帰
なん
するにあらずんば、其の卓見爰ぞ此に至らんや。
二氏雖 異端 、其設 教意、則固亦長 善消 悪
也已矣、故其説合 道者間有 之、然猶以 異端
不 取 其合 道者 、則非 狭隘 乎、善哉、鄒東
廓先生之説曰、「吾儒之教、若 三間正堂 、聖
聖相伝、洒掃以為 世業 、聖人不 作、而堂無
祖矣、老氏入 其左角 、指 天画 地曰、此吾之
堂也、釈氏入 其右角 、指 天画 地曰、此吾之
堂也、於 是堂中之人、眩然迷乱、而不 知 其
真 、後之儒者、欲 恢 復聖人之道 、則亦入居
中堂 、洒掃以復 其旧 可矣、乃割 其左 以帰
老、割 其右 以帰 釈、而聖人之堂、遂決裂而
不 完、葢二氏之言、其合 道者、固吾儒之道也、
至 於払 経而畔 道、則以 所 居之偏、無 以
履 大中 、而由 至正 焉耳、而 指言以為 老
釈之道 、雖 其合 道者 、一切禁忌、若 相汚
染 然、是割 吾地 、棄 吾兵糧 、借 盗而助
之攻 也、」鳴呼、先生之説、公正濶大、非
親 炙陽明先生 、而心帰 乎太虚 、其卓見爰
至 乎此 哉、
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●書を読む云々。
読書窮理は致良
知の仕事なり。
●二氏。老子の
道教と仏教。
●鄒東廓。王陽
明の高弟、前出。
●三間正堂。三
室の表座敷。
●祖。本尊と云
ふに同じ。
●経に払り云々。
正経に逆ひ悖り、
正道に背き反す
るやうになるの
は、左角右角の
偏に処り、虚無
寂滅に拘はり、
仁義の大中至正
に由らぬを云ふ。
●禁忌。禁止し
忌み嫌ふ。
●之が攻云々。
助けて我を攻め
させる。
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