●じやう
一七 理と時と勢とは、皆上の為す所なり。豈天と
●かんぶん けんじやう
云はんや。而て漢文は明君と雖も、大臣に謙譲し、
●
而て識者の言世に益あるを用ひず。則ち理と時と
勢とをして全く天に任ぜしめ、而て以て自から任
ちかう
ぜざるものなり。其の治效三王と同じからざるは、
葢し此に在り。而て賢を以て世に称せらる、則ち
こ ひ
亦た猶士の聖学に志さず、而て世に媚びて以て非
し ●りくしやうざん
刺せらるる無き者のごときなり。故に陸象山先生
●きやうげん けん
之を郷愿と謂ふ、是れ見なきにあらず。而て世儒
へん
其の説の意外に出づるに驚き、却て先生を貶して、
●だう/\ぜん あ ゝ
然として説を立つ。嗟夫、是れ亦た郷愿なる
かな。
理与時与勢、皆上之所為也、豈天云乎哉、
而漢文雖明君、謙譲於大臣、而不用識者
之言益乎世、則使理与時与勢全任于天、
而以不自任者也、其治效与三王不同、葢
在此矣、而以賢称乎世、則亦猶如士不
志於聖学、而媚於世以無非刺者也、故
陸象山先生謂之郷愿、是非無見、而世儒
驚其説之出于意外、却貶先生然立
説、嗟夫、是亦郷愿也哉、
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●上。天子。
●漢文。前漢の
孝文帝。
●識者。賈誼。
●陸象山。南宋
の名儒、前出。
●郷愿。一郷に
謹厚の名を取れ
る偽君子。論語
陽貨篇に「郷愿
は徳の賊なり」
とあり。
●。喧しく
言ひ合つて騒ぐ。
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