非情なビジネス・コーチング



野球チームに打率2割の控え選手がいたとします。もちろんこの選手のゴールはレギュラーになることです。コーチされることによって3割打てるようになって、なんとかレギュラーになれたとしたら、めでたしなのですが、控え選手全員をレギュラーにすることはもちろんできません。

ですから、レギュラーになれなかった人は控え選手の扱いを受け容れてもらうしかない。これがチーム・スポーツというものでしょう。つまり、チーム・スポーツとしてのコーチングは「控え選手の扱いを受け容れてもらうこと」も含まれる、ということになるわけです。

職場のビジネス・コーチングでも同様のことが言えます。それどころか、職場は結果を出せない社員は積極的に辞めてもらわなければなりません。職場のビジネス・コーチングは個人に対するコーチングとベクトルが一致することもあれば、しないこともあるわけです。

いや、むしろしないことのほうが多いのかもしれません。不況期にはリストラという言葉が流行りましたが、リストラしているようでは個人と組織とまったくベクトルが正反対と言えます。しかしリストラはやると決めたら、組織のために断行する必要があります。

ビジネス・コーチングで社員の能力を引き出すことは金科玉条であるかのようですが、そんな甘いものでもないのです。ビジネス・コーチングの目的は組織の存続が第一で、個人の幸福は二の次という側面もあるのです。

こう考えていくと、

「ビジネス・コーチングとは組織優先で極めて非情なもの」

という認識を持つ必要はあります。部下の能力を引き出すという理想論だけでは上司は勤まらないということです。

コーチングとは
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ある告知文(メール)にこんなくだりがありました。

「コーチングとは、相手の能力を最大限に引き出すコミュニケーション術(スキル)です」

世間にはいろいろの見解があって、そのどれが間違っているというつもりはありません。しかし、この説明は個人的にはまるで共感できず、ついていけない文言です。とにかく軽薄さを感じてしまいます。これを書いた人とはお友だちになれそうにありません^^なぜなら、

「コーチングは人間力でこなすものであって、スキルや術ではない」

というのが個人的な信念だからです。

このブログでも何度か書いていますが、コーチングの機能する条件は気持ちの整理のついた状態です。つまりカウンセリングされた状態でないと、コーチングは機能しません。コーチング単独で話をすると、カウンセリングを全く切り捨てることになります。その結果、特有の軽薄さがつきまとうのです。

「相手の能力を最大限に引き出すコミュニケーション術(スキル)」と言い切って何の抵抗もないのなら、コーチ側のコミットメントは知れたものです。提案とかする気持ちはハナからないでしょうから、結局、

「答えはあなたのなかにある」

と逃げ込む程度のよくないコーチングのことを言ってるんだな、と思わざるを得ません。偏見でしょうか?

コーチングいう概念を助言手法から単独で抽出して純粋培養した考え方をしていると、こうした弊害ばかり目立ちます。あくまで総合的な助言で考えて、これにコーチングという看板を掲げるのが健全なやり方だと考えるのです。

私がコーチングをひと言で定義すれば、

「コーチングとは、相手と対話しながら一緒に問題解決を考える助言手法です」

となります。

コールド・リーディング
388



コールド・リーディングの本が売れています。

コールド・リーディングはひと言で言って鎌かけ術です。誰にでも思い当たるようなことを言って、言い当てたと思わせ、信頼されるというテクニックです。

「あなたは普通の人よりも愛情深い。思いやりがある。でも、ときにはそれが伝わらないばかりか、裏目にででしまうことがある。あなたは今、何らかの人間関係の問題を抱えていますね」

といったようなことを言う。こんなのは誰でも当てはまることなのですが、心理トリックにかかってしまうと、こうした発言をする人を信頼してしまう、ということです。

著者の主張はこうした心理トリックをいい方向に活用すれば、人類の幸福に貢献する、というのですけれど、個人的には疑問です。心理トリックは所詮心理トリックに過ぎず、トリックから醒めてしまえばそれまでです。そこに「悟り」「自覚」「誠」といった、人間の神性から来るものがありません。空しいものです。

詐欺目的のコールド・リーダーの発するオーラはおそらく清まった感じではなく、なんとなく胡散臭い、というのがそれとなく伝わってくることと思います。絶対にだまされないとは言いませんが、なんとなく雰囲気でわかるような気がします。

心理トリックはコーチングの単発のセッションでは使えるかもしれません。しかし、何度も繰り返してセッションした場合、心理トリックはそのうち馬脚を現すことになるように思います。

クライアントの神性に語りかけるのが、パーソナル・コーチングのあるべき姿です。コールド・リーディングはあまりコーチングの役に立ちそうにないな、というのが個人的感想です。

ボケの論理
387



上司(とくに上級管理職)のあるべき姿を語るのに、私は2つのポイントに着目します。

・人の心の機微に通じているか
・実務能力があるか

以上を組み合わせると4通りのタイプを考えることができます。各タイプとも上司に求められるIQは十分クリアしていると想定します。

@人の心の機微に通じているし、実務能力もある
A人の心の機微に通じているが、実務能力はない
B人の心の機微に通じていないが、実務能力はある
C人の心の機微に通じていないし、実務能力もない

Cのタイプの上司は論外ですが、役所には数多くいるそうです。昇進試験に合格して上司になったタイプです。民間企業でこういったタイプが幅をきかせると、社業が傾きます。

Bのタイプは上司としてより、スペシャリストとして遇するのが適当です。実務能力はあるわけですから、活躍の場はいくらもあることでしょう。このタイプは上級管理職にはなれないし、向きません。

さて@Aのタイプですが、人の心の機微に通じているので、どちらも上司としての資格を備えています。どちらがいいかは、組織の成熟度と本人の自覚に左右され、一概には言えません。

組織の成熟度が低く、人材が育っていないのなら間違いなく@のタイプの上司がいいです。しかし、組織の成熟度が高く、人材が育っているなら、Aのタイプがむしろ具合がよいことも多いのです。

某社の例ですが、総務部にやり手の女性常務さんがいました。この人は銀行受けもよく、○○社に□□あり、と言われるほど評価の高い人でした。当然@のタイプの上司です。

ただこの総務部のほかの人材は「覇気がない」というのがもっぱらの評判で、何を訊いても、

「常務にうかがって見ませんと・・・」

という答えしか返って来なかった、ということです。

そうこうするうち、この女性常務さんが定年で退任しました。周囲はただでさえ覇気のない総務部がこの先どうなるであろうかと心配したそうです。

ところが、予想に反して、この常務さんが退任してから、覇気がなかった総務部の人材にずいぶん活気が出てきました。業務合理化を推進し、余剰人員は他部署に再配置、その結果少数精鋭のやる気集団に生まれ変わった、というのです。結局この女性常務さんが仕切っていた頃より、よほど状況が良くなりました。

ではこの女性常務さんの存在意義は何だったのでしょうか。大変皮肉なことに、人材育成の見地からはいないほうが良かった、ということになります。

@のタイプの上司は組織が成熟化してくると、「仕事をしない努力」「ヒマに耐える努力」が必要なのです。相も変わらず農耕民族の「働きバチ」の習性を捨て去れない場合、本人は良かれと思って仕事をしていても、組織に害をなすのです。つまり人材の育つ芽を摘んでしまうのです。

「仕事をしない努力」「ヒマに耐える努力」を私は、

ボケの論理

と呼んでいます。@のタイプの上司は、成熟した組織では「ボケの論理」を身につける必要があります。これはこれで難しく、たいそう努力の要ることでもあります。これができずに組織に害を与え続けている上司は結構多いのです。

私自身も元は「働きバチ」タイプであったわけですが、実務を離れるとそう指導らしいこともできません。その結果、ふだんは何もしないのが一番組織のため、なにかあった時だけ判断する、ような境遇に追い込まれていくものです。「働きバチ」タイプには当初耐え難く辛いことなのです。

大企業では、部課長のみをすげ替える「落下傘降下人事」をよくやります。これはその必要があってやってるわけです。上司だけをすげ替えれば、上司は実務に対して習熟できず、ボケざるを得ません。その結果部下の人材が育つのです。組織力とはそういうものです。

ビジネス・コーチングとはとどのつまり人材を育てる手法ですが、人材を育てるにあたってはこの「ボケの論理」を押さえることがポイントなのです。

最も記念すべき日は
386



私の著書やホームページで書いている、コーチングを始めるきっかけになったT先生ですが、昨日久々に会って食事をする機会がありました。

T先生と初めて会ったのは2003年の4月13日でした。当時私は自信をすっかりなくし、そうとう精神的にひどい状態でしたが、それからちょうど3年後の2006年4月11日、自分の書いた本が書店に並ぶことになりました。

人間変われば変わるものです。

どこかの本で読んだのですが、

「あなたの最も記念すべき日は成功して得意の絶頂にある日ではない。むしろ、失敗して失意のどん底にあった日である」

といった言葉がありました。言い得て妙です。「ピンチはチャンス」と言ってしまえば簡単ですが、当時はとてもそんな余裕はありませんでした。しかし、当時があるからこそ今があるわけです。改めてT先生との出会いを感謝しないわけにはいきません。
400 福島健康保険医協会
399 修了証
398 群れないというありかた
397 資格発行
396 全方位苦情処理

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395 N番煎じ
394 紫外線パワー
393 コーチング本
392 いかに盛り上がるか
391 カウンセリングのアカデミズム

*
390 非情なビジネス・コーチング
389 コーチングとは
388 コールド・リーディング
387 ボケの論理
386 最も記念すべき日は
*
385 コーチングより重要なカウンセリング
384 一日研修
383 自分の造語
382 充電が必要
381 ライフ・ミッション

*
380 後は自分で考えるしかない
379 志が見つからない
378 ハウツー本の弊害
377 一石二鳥?
376 ミリオンセラーというのはいかに途方もない存在か

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375 amazonの書評
374 書店視察
373 発売日に在庫切れですと・・・
372 実習のテーマ
371 アマゾンに載った!

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370 ブログの活用
369 認知
368 初めて見るわが子
367 上司はつらいよ
366 行き先あってのコーチング

*
365 不況型人間
364 職業観
363 春の陽気
362 認定制度
361 気持ちはわかります

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360 人生設計
359 ビジネス・モデル
358 助言者としての素質
357 学習塾のコーチングとは
356 越境と流派

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355 生かされて生きている
354 性悪説
353 賃貸アパート
352 願望実現
351 スカイプアウト


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