諸政改革ハ敢テ先 生ノ与ラザル所、只先ヅ此ノ飢饉ニ善処セザルベカラズ、而シテ経営惨憺タ ルモノ遂ニ強訴ヲ以テ一ノ罪囚視スルニ至ル、先生ニシテ進デ此ノ窮民ヲ救 ハントセバ先ヅ此ノ暴吏ノ暴ヲ懲シ秕政ノ秕ヲ除カザルベカラズ、暴君酷吏 ヲ誅伐スルニアラズンバ遂ニ国民ヲ苛政ト飢饑トヨリ救フヲ得ズ、

故ニ先生ノ曰ク

此様の時節には、上より専ら仁政を施し、可申筈之処、言語道断存外之仕 合、実に苛政とや可申、上下の為め此程心を砕く某を非法之沙汰として、 定めて入獄にも及び可申、然る上は眼前に耻を受け、末代に汚名を流さん よりは、諸氏の為め潔く一命を捨て、我が存分に事を発し、我が計事を行 ふべし。

大塩平八郎伝云　是ニ於テ平八郎庄司義左衛門ヲ迎ヘテ、示スニ鴻池等連 名ノ謝書ヲ以テシ、

余不敏ニシテ奴輩ニ誤ラレ面目ノ協議諸子ニ見ユルナ シ、故ニ我敢テ微躯ヲ試ミテ宿志ヲ償ヒ猾吏驕民ノ眠ヲ駆ラント欲ス、敢 テ乱ヲ好ムニ非ズ実ニ已ムヲ得ザルナリ、今足下ニ托シテ吾ガ誠心ヲ世上ニ伝ヘ併セテ諸子ニ識シメントスレバ足下必ズ之ヲ拒ム勿レト、声涙共ニ 下ル、

義左衛門之ヲ聴テ声色ヲ起シ、寄託重ケレドモ某世ニ存シテ狗鼠ノ 徒ト倶ニ庁ニ立ツヲ欲セズ、望ムラクハ先生ノ前駆トナリ鞭ヲ執テ一臂ノ 力ヲ致サン、今ヤ時論与セザルモ決シテ恤ルニ足ラズ、後世輿論一ニ帰ス ルヲ待テ而シテ先生ノ名定マル可シト、

平八郎欣然トシテ曰ク足下身ヲ以テ我ニ許サバ大事済スニ難カラズト。