曰ク東組与力瀬田済之助、同小泉淵次郎、

曰ク東組同心庄司義左衛門、近藤梶五郎、渡辺良左衛門、吉見九郎右衛門、河合郷左衛門、平山助次郎、

曰ク玉造与力大井伝次郎ノ男大井正一郎、弓同心竹上万太郎、

曰ク河州般若寺村名主橋本忠兵衛、守口村名主茨田軍次、同白井孝右衛門、弓削村郷士深尾才次郎、猪飼野村木村司馬之助、

曰ク浪人ニハ江州ノ志村周次、伊勢ノ安田図書、肥前ノ横山文哉、彦根ノ梅田源右衛門、大阪ノ松本麟太夫、播州ノ堀井儀三郎、

其他地方ノ土豪ニハ梶岡源右衛門、高橋九右衛門、額田 善右衛門、西村利三郎、上田孝太郎、堤半右衛門、

曰ク吹田村神宮宮脇志摩、大塩格之助弔民唱義ノ血盟即チ成ル。

按スルニ去秋以来先生幾回ノ窮民救済策一モ行ハルゝ所ナク奸商ノ售ル所トナリ、酷吏ノ辱シムル所トナリ、又遂ニ強訴ノ罪ヲ以テ待タントスルニ至テ先生茲ニ弔民唱義ノ意ヲ決スルニ至ル、

是ノ時ニ当テ昨秋ヨリ計画中ナリシ今春堺七堂ケ浜ニ挙行セントシテ準備セル丁打演習ノ武器ハ既ニ七八分マデ進行セル時ニシテ、ソハ即チ恰モ謀叛ノ用意ナリシトセラルゝ程打テ付ケノ義挙ノ用ニ転用サルゝニ至レルハ何等ノ天祐ゾヤ、

然レドモ是レ先生ノ文事アルモノ必ズ武備アル所以ニシテ、之ヲ以テ漫ニ先生ノ心事ヲ忖度スベキニ非ラザルナリ、只併シナガラ之アルガ為ニ洗心洞ノ義盟ヲ速カナラシメタルハ事実ナルベシ、

即チ一面不時ノ準備トシテ武芸ノ練習ニ門人ノ志気ノ鼓舞セラレタリシ時、先生ノ救民策全ク峻拒セラレテ身且ツ危キニ当リ、早ク新奉行ノ苛察政治ニ不平ヲ抱ケル門人有司ノ義憤ハ仮令空拳ト雖モ此時蹶起ヲ辞セザル場合、只コレ眼前ニ陳列サレタル武器ヲ手ニスルコトニ因テ大事成ルトセバ盖シ門人有志ノ義盟ガ此ノ武器ニ依テ早カラシメタルモノアルハ争フベカラズ、

要スルニ此ノ勢ハ用意ヲ整テ義挙ヲ勧誘セルニ非ズシテ、先生ノ命窮セルトキ門人ハ用意ノ武器ヲ取テ先生ヲ擁シテ立テリト云フノミ、

大事既ニ決ス、雷霆耳ヲ掩フノ暇アラザル迅速ヲ以テ事ヲ運ラスハ軍法ノ命ズル所、即チ正月八日ノ義盟ト成レル所以、而モ武備ト義盟ト之ヲ偶然トスルニハ余リニ天祐ノ多キヲ見ル故ニ後世先生ヲ論ズルモノ之ヲ兼テ謀叛ノ用意ニ出ヅルト為シ、事一朝一夕ノ計ニ非ズト云ヒ、或ハ多年ノ計謀ト為ス如キハ畢竟小人ヲ以テ徒ニ君子ヲ忖度スルモノゝミ、

語ニ云フ文事アル者必ズ武備アリト、先生ニシテ若一俗吏ノ隠居タラシメバ天下ノ武備ニ平生心ヲ措クハ無用ノ余事ノミ、苟モ天下ノ儒ヲ以テ任ズル先生ニシテ武備ヲ知ラズンバ以テ洗心洞主人ト謂フヲ得ズ、況ヤ先生ハ武人ニシテ経学ヲ兼ネタルモノ、功名気節ノ志ヲ屈シテ聖賢ノ道ヲ躰シタルモノ、

此レ先生ハ所謂時務ヲ知ルノ俊傑大阪城ノ御手薄ハ先生平生ノ憂トセル所、況ヤ窮年多クハ盗賊ノ乗ズル所、既ニ播州、越後、甲州ノ乱アリ、若シ此時一タビ過ランカ泰平二百余年上下文恬武煕士風衰ヘ民俗頽ルゝノ日一朝事アラバ徳川ノ天下モ土崩瓦解収拾スル所ナカルベク、黒船若シ来テ我ヲ窺ハゞ美ナル山河モ腥風ノ為ニ汚サレントス、是レ先生ノ憂也、

而シテ此ノ日恃ムベキモノ只夫忠孝節義ノ鼓舞ト武備兵略ノ錬磨ニアルカ、洗心洞ノ学ト先生ノ志茲ニアリ、故ニ昨秋ニ砲術研究ヲ開始シ、今春堺七堂ケ浜ニ武技演習ヲ行ハントシ、又兼テ窮年非常ノ準備トナス、然ルヲ世事偶々心ト違ヒ、遂ニ自ラ弔民唱義ノ挙ニ用ヒザルベカラザルニ至レルハ天カ命カ、先生ニ於テ感慨ニ耐ヘザルモノアルベシ、

而シテ後ノ先生ヲ論ズルモノ誤解ヨリ生ズ、或人問フ然ラバ先生ノ飢饉ノ非常準備ハ那処ノ点マデニシテ、那処ノ点ヨリ暴動ニ変ジ来タレルカト、

余云フ人若シ強テ此ノ区別ヲ正サント欲セバ洗心洞義盟ノ此ノ日ヲ以テ前後ヲ区別スルハ可ナリ、先生弔民唱義ノ決意此ノ日ニ在ルヲ以テ也、苟モ是ヨリ溯テ先生挙兵ノ動機決意ノ時期ヲ索ムルハ索ムルモノゝ私意臆測ノミ、断ジテ史実アラザルナリ、伝説ト雖モ之アラザルナリ、

然レドモ義盟ノ日ヲ以テ前後ヲ区別スルモ実ハ無用ノ事ノミ、何トナレバ前ノ武備兵略ヲ講修スルノ誠心ハ後ノ弔民唱義ノ誠心ニシテ、後ノ弔民唱義ハ前ノ非常防備ト其意一ニシテ二ナラザレバ也、成敗ヲ以テ事ヲ論ズルモノハ常ニ人ヲ誤ル、前後ヲ以テ順逆ヲ定ムルハ俗論ノミ、先生ヲ知ラント欲セバ心太虚ニ帰シテ初テ先生ノ真面目ヲ見ルベキノミ。

又按スルニ評定所吟味書ナルモノハ或ハ拷問ニヨリ、或ハ誘惑ニヨリ、由来為政者ノ為ニ都合ヨク作ラレタルモノ多キヲ以テ信ジ難シト雖モ、洗心洞義盟ニ就テハ依ル所アルニ似タリ、

所謂一味徒党ノ連判状ニ記名調印セルモノニ庄司義左衛門、平山助次郎、吉見九郎右衛門ヲ正月八日トシ、橋本忠兵衛、白井孝右衛門、大井正一郎ヲ正月中トシ、梶岡源右衛門同伝七ヲ正月十八日、茨田郡次、高橋九右衛門ヲ正月廿八日ニ、竹上万太郎ヲ二月十三日ニ、上田孝太郎ヲ十五日、木村司馬之助、横山文哉ヲ二月中ト為セル区々トシテ一定セザル如キモ、正月八日ヲ以テ義盟ヲ作レルハ明ニシテ其十八廿八トセル如キ恐ラクハ其実八日ヲ仮説シタルモノカ、二月中ノ説ニ至テハ全ク信ズルニ足ラズ、

此ノ連判状ハ後チ唱義軍ノ淡路町敗北ノ際火中ニ投ジタリト云ヒ、又遺留品唐櫃中ヨリ検挙シタリトノ説アルモ、恐ラク敵手ニ渡レル如キハ信ズベカラズ、左レバ洗心洞ノ義盟ニ入レル総員並ニ姓名ハ今日悉ク之ヲ知ルベカラザルモ、連判状ニ署セシ者ノ如キ概シテ門人中ノ重ナルモノトスベク、勢子雑兵ノ之ニ与カラザリシヤ言フ迄モナシト雖モ啻ニ如上ノ三五十人ニ止マラザリシハ明カナリ、

若夫此ノ中、脅従強制ノ者アル如ク言フモノアルハ変節反忠者ノ讒誣ニアラザレバ評定所ノ故造ノミ、仮令平山、吉見、河合、竹上ノ徒ト雖モ苟モ血ヲ啜リ盟ヲ立ツルノ当時ニ在テ其意気身ヲ殺シテ仁ヲ為スモ酷吏奸商ト共ニ天ヲ戴カズトセル此ノ義盟ノ成ル所以ニシテ何ノ脅従強制カアラン、

故ニ平山竹上ノ姓名早ク武器ニ鋳リ、吉見河合ノ二子又始終出入所謂義挙ノ準備ニ鞅掌シ タルノ好例証ト為スベキナリ。